「猿飛って何のバイトしてるの」


私の問いに、猿飛はちらりと視線をこちらに向けた。 閑散とした教室ではざわざわと小波のように話し声が途切れることはなく、少数の真面目な学生だけが単調な講師の話に熱心に耳を傾けている。最後列付近に座った私と、その隣に当然のように座ってきた猿飛の周りに他に人はいない。


「珍しいねぇ、名前ちゃんが俺様に興味持ってくれるなんて」
「猿飛がヤバイバイトしてるらしいって聞いただけだよ」
「……へえ?」


猿飛はゆたりと目を細め、笑う。猿飛の容貌は整っているし、多分本人もそれを自覚して行動している。だからと言って女受けが際立って良いのかと言われれば微妙なところで、まあ大概は良いのだろうけど、「遊んでそう」な雰囲気を避ける女子には露骨に受けない。
この講義はいつも並んで受けているが、私と猿飛が付き合っているという噂が立つことがない。なぜなら、猿飛は講義によって違う女の隣に陣取るからだ。これはあの子、こっちはこの子。付き合っているという噂になることはないが、関係を持ってるんじゃないかと噂されることならしばしばある。
勘弁してくれ。そう思う。
このにやにやしつこい男を振り切ることは、もうとうに諦めたのだが。


「じゃあ名前ちゃんは俺様にじゃなくてヤバイバイトに興味を持った訳だ」
「変な言い方しないでくれないかな」
「はーい、名前センセ」
「……で、何。風俗でもやってるの」
「風俗?男娼ってこと?」


だんしょう、ダンショウ、ああ、男娼か。聞き慣れない言葉に変換が遅れた。そんな言葉がさらりと出てきたことに、疑念の意を込めた視線を送る。どう受け取られたのか、猿飛はにこりと白々しい笑顔を浮かべた。


「残念、不正解。そんな稼げそうなお仕事じゃありません」
「……さっきから、ヤバイバイトっていうのは否定しないんだ」
「うーん、そもそもバイトなのか微妙なんだよねぇ……まだ師匠の手伝いくらいしかさせて貰えてないしさ」
「は?師匠?」


思わずすっとんきょうな声が出たが、一応講義中てあることを思い出して声を抑える。


「……職人になるの?」
「さあねぇー?職人芸なのは確かだろうけど、俺様なるのかも分からないし」
「何それ……」
「……名前ちゃん、興味あるなら体験してみる?」


不意に、猿飛の声のトーンが一段下がった。その形だけ笑った目の奥に、ゆらり、妖しい光が揺らめく。(あ、)これは、良くない。身を引こうとした瞬間、強い力で左腕を捕まれた。猿飛の冷たい指が、私の肌に食い込む。


「俺様、名前ちゃんなら似合うと思うなぁ」
「……何が」
「はは、そんなに警戒しないでよ」


大丈夫だいじょーぶ、そんな猿飛の声が、酷く白々しい。



「――ちょっと縄で縛られるだけたから、ね?」








緊縛師という職業があることに感銘的なものを受けて色々調べてたら書きたくなった産物。
にわか知識しかないそして続かない


ぬるぬる考えた設定↓
夢主:大学生二年生。文系。クールできつく見える顔立ち。好みが分かれる感じ。
猿飛とは大学で知り合った。なんか近づいてきた顔良い話面白いな猿飛のことを一瞬良いなぁと思った過去の自分を殺したい。性癖はM寄りだけど至ってノーマル。
猿飛:夢主と同じ学年学科。モテる。遊び慣れている。
元々S趣味はあったがライトなものだった。しかし誘われて見に行った緊縛ショーで完全にその世界に魅せられ、なんやかんやで弟子入り。今は教えを承けつつ師匠を手伝ったり実践したりしている。
夢主の顔が好み。
大谷:猿飛の師匠。その筋ではかなり有名な緊縛師。患ってはいないがマスクをしていることが多い。弟子をとることは少ない。


もし書いたとしてもR18展開はないまま終わりそう
20140613


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