軍の中で昇進して新たに与えられた仕事は、取り集めた献上品を収め、将軍に報告するというものだった。名誉なことなのかもしれないが、どうしても憂鬱な気分は消えてくれない。私は少しアルケイン将軍が苦手なのだ。立派な方だということは分かっている。でも、なぜか。


「アルケイン将軍、本日の分完了致しました」
「ワインは別にしてくれました?」
「いつもの様に」
「よし。ありがとう、助かるよ」


堂々と横領宣言するなと心の中で思うが、勿論口には出さない。いえ、と短く応えていつもの様に目を合わせないまま背中を向ける。

向けた、瞬間。



「ああ、名前」




不意に掛けられた声に、心臓が跳ねた。
(私の名前、知っていたんだ)国の英雄である方が、何でそんな。混乱した頭のまま、何も考えずに振り返る。

先程まで椅子に座っていた筈のアルケイン将軍が、すぐ目の前に立っていた。


「……へ……!?」
「たまにはお喋りでもしませんか?」


にこり、とアルケイン将軍の口元が笑みを描いた。
(お喋り、って)言葉の意味が分からず、呆然とアルケイン将軍を見上げる。というか、近い。近すぎる。跳ねた心臓は収まる気配を見せず、未だに早い鼓動を刻んでいて。
後ろには扉、前にはアルケイン将軍。逃げる場所がない。


「……あ、アルケイン将軍……」
「何ですか?」
「ちょっと、その、近すぎるのでは……」
「こうでもしないと君は逃げてしまいそうですからね」


そう言って、おかしそうに喉を鳴らす。


「だって、君は僕を嫌いでしょう」


背筋が一瞬で凍りついた。
嘘、何でバレているの。というか相手は将軍、そして私はただの一兵で。事実

これは、殺される。


「いいいいいえそんなことは全く以て全然……!」
「本当に?」
「本当です!」
「僕のことが好きかい?」
「ええ勿論!!……え?」


なんか、今、おかしかった気が。
我に返ってアルケイン将軍を見ると、更に笑みを深くして私を見ていた。そこに怒っているような気配は全くない。


「ふふ、好きだなんて照れますね」
「え、あ、その……」
「あれ、違うんですか?」


違う。思わず勢いで返事してしまったけどそれはおかしい。でもそんなこと言える訳もなく、いえ、とだけ小さく応える。聞こえたかは分からなかったが、アルケイン将軍は満足そうに優しく私の頭を撫でた。


「じゃあ問題ありませんね。ワインを開けますから少し付き合ってください」
「え……」
「言ったでしょう?お喋りしようって」


ね、とアルケイン将軍が私の頭に手を置いたまま笑った。







微Sケインもありかなぁと。


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