耳元で聞こえた彼女の吐息は涙に濡れていた。
絶対に離さないようにしながら、少しだけ抱きしめる力を弛めて彼女を見る。俯いた頬を滑り落ちる、二筋の弱い光。不意に、青い瞳が俺を静かに見上げた。瞬けば、また、涙は零れ落ちる。青い感情に沈んでも、尚彼女は美しかった。抗わないまま、悲しげな目で俺を見続けている。



「……どう、して」



そんな表情で、
そんな哀しそうに、
黙ったまま、
俺を、見つめたまま、




「どうして、君が泣いているんだ」





どうして、逃げようとしないの。





口から溢れた言葉に、痛みを伴う感情が遅れて反応した。もしこれで君が俺をおかしいと思ったら、ここから逃れたいと思ったら。心臓を切り裂かれるような、海の底に引き摺り込まれるような感覚。



彼女を繋ぎ止めても終わらない、果てのない暗い感情。




彼女が腕の中で微かに動いた瞬間、ざわりと内臓に冷たいものが走った。彼女が右手を持ち上げる。(駄目だ、)逃げて、しまう。俺を押し退けて、拒絶して、また、ひとりきりに。駄目だ、駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ。逃がさないように、目を瞑って腕に力を入れる。




俺に触れた手は、俺を押し退けようとも、拒絶の為に振るわれることもなかった。

ただ、優しく、柔らかな感触に、思わず目を開く。




「……え……?」


細い指が、俺の目尻に触れていた。全てを見透すような、深い青色。そこには、拒絶も嫌悪も浮かんでいない。
ただ、確かな優しさだけ。


「……気づいてないの?」


静かな囁きが、鼓膜を揺らす。
その声も、瞳も、どうしようにもなく綺麗で。まるで、どんなに手を伸ばしても到底届かない夜空のように、うつくしいもので。



「あなたが、泣いているからよ」





芽生えた確信が、ゆっくりと心臓に溶けてゆく。





視線を下げて、俺はただ彼女を抱きしめる。彼女は、何も言わなかった。



ねえ。
夜空の密やかな輝きのように、君は真っ直ぐで、美しくて、俺が捕まえることなんて、本当はできないものだから。
ここで君が俺を拒んだら、俺はきっと君を離してしまう。


今君をここに留めているのは、きっと、途方もない程の君の優しさ。
その優しさを貪って、輝きにすがりついて、俺は漸く息をしていられる。ずっとそうしていられる訳がないのに。ただ、醜く、生き延びて。







瞳から零れたのは、
煌めき、燃えゆく流星だった。













いつの間にか王子ハントの配信終わっていたので。供養に。
ジェリスさんは一人称俺のお兄さんキャラっぽく見せかけて主人公大好きの微ヤンデレさんな所が大好きです。
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