透けるような白い肌に、絹よりも滑らかな黒髪。私を貫く闇よりも深い瞳には、力強さと風格が溢れている。

「――余のものとなれ」

美の女神も羨むとさえ言われる美麗なる容姿に相応しい声で、彼は低く告げた。それは、思考を圧倒し蹂躙する、王の雰囲気。意図せず、呑まれそうになる。
返事をしないままでいる私を傲慢に見下ろし、その口元が優美な笑みを描いた。

「今から貴様は余のものとなり、その命を余に捧げるのだ」

戯れ言にしか聞こえない尊大な言葉も、彼の口から出ると絶対の真理のように響く。口内に溜まった唾を飲み込んで、私はおもむろに口を開いた。


「……ネフィリムさ「ちょっと待ったああああっ!!」


派手な音と共に、背後の扉が叩き開けられた。
振り返るよりも早く、騒がしい侵入者が足早に私とネフィリム様の間に立ちふさがった。一瞬の出来事だった。その向こう側で、ネフィリム様が不快げに眉をひそめる。

「アルケイン、貴様が入ってくるのを許した覚えはないぞ」

「今はなりふりなんて構っていられません!いくら陛下と言いましても、この子だけは絶対に渡しませんよ!」

「あのー閣下ー」

「ふん、貴様などにこの娘は勿体ないだろう。其奴こそ、余の元にいるべき存在だ」

「そんなことありません!彼女は僕の元にいなくてはいけないんです」

「もしもーし」

「くだらんな。そもそも魔導士が貴様の元にいようと何ら利はないだろう」

「いえ、僕の軍にだって魔導士は必要です。そしてそれは彼女でなければ「人の話を聞けこのアル中っ!!」

「痛いっ!」

手に持っていた杖で目の前の背中を思い切りぶん殴った。うん、流石上質の木から作った杖だ。かなり痛そう。
ここまでしてようやく、アルケイン将軍が私を振り返った。顔を覆う仮面の下、血色のない口元には悲痛な色が浮かんでいる。

「いきなり何をするんですか!?結構痛かったですよ?」

「閣下が人の話を聞かないからです。そもそも陛下の所へ殴り込むなんて非礼だと思わないのですか」

「いや、僕は君がネフィリム様に誘われていると聞いていてもたっても……」

「恥を知りなさい」

「直属の上司にそこまで言います!?」

大声を上げるアルケイン将軍は無視しつつその横に並び、ネフィリム様と再び向き合う。つまらなそうにを頬杖を突いて、彼は私を見やった。

「貴様もこんな奴の直属、いい加減嫌になってきた頃ではないのか?」

「否定は致しません」

「ちょっと!?」

「それならば何も問題ない。もう一度だけ言う、余のものになれ」

余のもの、って。自分の軍に来いというだけなのに随分仰々しい言い方だ。そういえば、さっき将軍も「この子は渡さない」とか言っていたし。まるで、私を取り合っているかのような言い種だ。

……国王と将軍が?ないない、あり得ない。

馬鹿な考えを一瞬で叩き潰し、口を開く。


「ネフィリム様」

「うむ」

「申し訳ありませんが、お断りさせて頂きます」

すいませんと謝罪を重ねて、深く頭を下げる。




「……え?」



なぜかアルケイン将軍が、呆気にとられたように呟いた。





暫しの空白の後、明らかに機嫌の悪いネフィリム様の声が聞こえた。

「おい、どういうことだ。その男に脅されてでもいるのか?」

「いえ、そういう訳では」

「……とりあえず顔を上げろ。余が話しにくい」

言われた通りに姿勢を正すと、ネフィリム様が不満に表情を歪めていた。隣にのアルケイン将軍は無言のまま、呆気にとられたようにこちらを見ている。

「確かに私は魔導を追求する身で、その為にはネフィリム様にお仕えするべきなのかもしれません」

「……」

「ですが、」

一旦言葉を切って、アルケイン将軍を見上げる。(なんて顔をしているんだ、この人)本当に、私がネフィリム様の元へ行くと思ったのだろうか。


「私はアルケイン将軍の元で闘うと、決めていますので」


私のことを、一度捧げた忠誠をあっさり翻すような人間だと思っていたのなら。

だとしたら、相当見縊られている。



私の言葉を聞いたネフィリム様は、気に喰わないものを見るように目を細めた。

「……ふん、つまらん」

小さな呟きと同時に、アルケイン将軍がはっと我に返ったように私を見る。

「君がそんな風に言ってくれるなんて……!僕は嬉しいですよ!こんなに嬉しいのは久しぶりだ!!」

「随分信用なかったんですね、私」

「そんなことはないですよ!ただ単純に、君の口からはっきりと僕の元にいたいと言われたのが嬉しいんだ。この喜びはワインで彩るしかありませんね。さあおいで、取って置きのワインを開けよう!」

「……やっぱりネフィリム様の元へ参りましょうか」

「え?」

「余は構わんぞ。そんなアル中は放っていつでも来い。手厚く扱ってやる」

「ありがとうございます」

「ちょっと!」


まあ、多分。
なんだかんだで、私はこの人の元を離れられないんだろうけど。



(ねえ、嘘ですよね?まだ僕の元にいてくれますよね?)
(はいはい、いますから黙っていてください)

(……ふん、つまらん)








捏造三角関係第二段、ネフィ様アル様。
権力使えばいくらでも異動させることは出来るけど、自分から「貴方の元に行きたい」と言われるまで待ってるネフィ様とか可愛いなぁ、というだけの話。

拍手ありがとうございました!







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