恋がしたい。


私の唐突な呟きに、瑛は露骨に眉をひそめた。


「何だよ、いきなり」「なんか恋したいなーって思って」「……あっそ」


溜息混じりの言葉。呆れを隠そうともしない物言いが、なんとなく癇に障る。


「何か文句でも?」「別に」「嘘つき」「は?」「しかめっつら」


びしっという脳内効果音と共に、瑛の顔を指差した。折角整っているのに、そんな顔をするのは勿体ないと思う。瑛は私の指先を見遣ると、更に不機嫌そうな表情をしてそっぽを向いた。(本当、勿体ない!)


「別に、したいなら勝手にすれば良いだろ」「そういうものじゃないの!瑛は分かってない、恋愛っていうのはそういうつまらない理性が介入してくるようなものじゃ」「あーはいはい、そうですねー」(この男……)


一応瑛だって青春も盛りの高校生なんだから、少しはこういう若々しい話題に食い付いてきたって良いのに。まあそんなことを言えば、きっとまたあのしかめっつらで「俺にはそんな暇はないんだ」云々と言うんだろう。瑛が人より忙しいのは事実だけど、それでも、もっと色々なことを楽しんだって良いんじゃないかって思ってしまう。そんなの、私の勝手な思いなんだろうけど。


「……瑛はさ、好きな人とかいないの?」「いない」「わー即答。彼女の一人や二人いるのかと思ってた」「何でそうなるんだよ」「そりゃあ毎日あれだけ囲まれてれば」「馬鹿かお前。あんなのうるさいだけだ」「……まあ、うるさいね」「だろ」


確かにあの中の誰かと特別な関係になった瑛は想像しづらい。高校生の恋愛なんて、相手と近い距離に居たいという願望の下に至近距離で行われる甘さとか苦さとかそういうもので溢れた無遠慮な触れ合いだ。何秒か粘ってみたけど、本心の吐露が何より苦手な瑛が誰かに恋をする風景なんてやっぱり思い浮かばなかった。


「……お前は、さ」「え?」「お前は、どうなんだよ」


(わたし、は)想像斜め上からの変化球に一瞬言葉に詰まったけど、空いた隙間を誤魔化すようにすぐ笑顔を作ってみせた。


「恋したいって言ってるじゃん、さっきから」「……そうだったな」「そーだよ」


瑛も小さく笑ったけど、なぜか、その笑顔は少しだけ陰のあるものに見えた。(何でそんな表情をするんだろう)(私は、嘘をついてないよ)恋がしたい。胸を高鳴らせて明日を待ち遠しく思うような、想いのままに前向きな未来を目指せる、そんな恋。行き場を無くした感情に息を詰まらせて、向けた想いも相手の残酷な優しさで無かったことにされる。そんな、最初から無かった方が良かった想いを、上から塗り潰せるような。


「瑛」「……何だよ」


そんな想いを恋だなんて呼びたくない。どこにもしあわせが見えない感情なんて、忘れてしまいたいだけから。(だから、恋がしたい)(張り裂けるような痛みの中でも、明るい未来がかけらでも望めるような恋を)



「瑛だって、しあわせな恋をした方が良いと思うよ」



本当。
先生なんて、好きになりたくなかった。




(彼は驚いたように目を見開いて、一瞬、悲しそうな表情をしたように見えた)












捏造三角関係第一弾、瑛主若。
しかしこの△関係モードはいつかプレイ出来る日が来ると固く信じています。
拍手ありがとうございました!






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