''蓮が一人でシてるとこ、見せて''


 





***



 梓さんに呼ばれたかと思えば、にっこりと、それでもかっこよくて様になる笑顔で告げられた。僕にとって彼がすべて。返事はもちろんYESだ。

 ワイシャツのボタンをひとつひとつ脱いで行く。緊張と恐怖と、ほんの少しの期待と興奮で手が震える。

 梓さんはソファーに座って、ひとつの動作も見落とさないといったようにまっすぐ見つめてくる。それが僕の身体の熱を上げた。


「全部脱げよ」
「はい……」


 全部脱いでから、梓さんの前にある大きいローテーブルに体育座りで腰を下ろす。テーブルに座るなんて行儀悪いけど、梓さんが言うから。ここでしろって。
 座ったところで怖くなって梓さんを見上げると、梓さんは長い足を組んで背もたれに寄りかかり、俺の視線に気づくと口角を吊り上げ、まるで「はやくしろ」と言ったように、僕を見つめていた。

 意を決してぎゅっと目を瞑り、緩々と手を伸ばしてまだ芯のない自分のモノに触れる。もぞもぞと僕の手が動くのに、それに合わせて梓さんの視線もそこに行くのが分かって、頭がクラクラする。


「……んっ」


 いつも梓さんがしてくれているように、思い出しながらそこを弄る。普段は梓さんに抱いてもらえているからひとりでするなんてこと、めっきり少なくなった。

 ぐにぐにと両手で握るよう全体を刺激し、片手を離して扱く。次第に固くなるそれに比例して押し上げるように声が出た。


「…っは、ぁ…ん……」
「蓮、見えねえ。足開け」
「………はいっ…」


 言われて、恥ずかしさからかいつもよりずっと重たい足をぐぐぐと開く。


「もっと」




「もっと」


 じっと見つめる梓さんに言われるがまま足を開く。そこらじゅうに梓さんの視線を感じて、じわじわとこみ上げる熱から耐えるようにぎゅっと目をつぶり顔を逸らした。それでいい、と言われた時にははしたないくらいに大きく開脚していて、間違いなく梓さんにはすべて見えているだろう。
 恥ずかしい。恥ずかしいけれど、僕にこの足を閉じる権利なんて、ましてやこの行為を止める権利なんてない。
僕にできることは、ただ、梓さんが望むことを叶えるだけ。


「…んっ、ぁ…ふ、ンン……」


 ごしごしと扱いていると、先端から粘着質な透明の液体が零れ出し、親指で先端をぐりぐりと刺激しその液体を全体に塗り広げるように扱く。
 梓さんの視線が、とても熱い。その熱を感じるだけで僕は浅ましくも気持ちが高揚し、全身に快感というシグナルを送っていた。


「お前はいつも、そこだけなのか?」
「…っは、え?」


 ぐちゅぐちゅと音がなり出した頃、今まで黙って見ていた梓さんが口を開いた。


「そこだけの刺激じゃもう物足らねえだろ」


 まるで答えを知っているかのような顔で僕を見る梓さん。
 その言葉の意味が分からないほど僕は純粋じゃない。
 恥ずかしくてたまらない。けれど、梓さんが言うから。下唇をぐっと噛んで、空いている手を恐る恐る胸に持って行く。そこには、羞恥と興奮と快感にあてられてピンと張る小さな突起。
 ゆっくりと胸に手を当て上下に揺らす。そうすると指に突起が引っかかり、ビリビリとした気持ちよさが背筋を駆け抜ける。


「あ!……ぁ、う…んっ…」


 親指と人差し指でしこりを挟み、指を擦り合わせるかのようにしてぐりぐりと刺激する。自分でやったことなのにあまりの気持ち良さにびっくりして目を見開いて身体を跳ねさせた。


「んぅっ……ぁ、ふっ……」
「気持ちいい?」


 唇をぎゅっと噛んでコクコクと頷いて返事をすれば、梓さんはちゃんと言葉にしろと言われた。


「あ……きもち、気持ちいいですっ!」
「ふぅん、腰引けてるぞ。ちゃんと下も弄ってやれ」
「はいっ……んっ、はぁ…ぁあっ、ぅ…」


 相変わらず僕の愚息は時折びくんと揺れながら先端から分泌される透明な液体で全体を濡らしていた。手を筒状にして上下に動かしながら人差し指を先端の穴に突き立てる。これはいつも僕に梓さんがする愛撫で、僕は忠実にそれを真似して快感を得ていた。


「蓮、右手貸せ」
「…え?あ、はい」


 液体濡れしている右手を恐る恐る梓さんに出すと、梓はなんと僕の人差し指と中指を舐め始めた。


「ぅあっ……ぁ、ひっ……ンンッ…」


 ぴちゃぴちゃと音を立てて二本の指を舐めていたかと思えば、かぷりと咥え込んで全体をちゅうっと吸ってくる。根元まで咥えられた指全体に舌を這わされ、その舌遣いはまるで僕自身が咥えられた時の場面を彷彿とさせた。
 梓さんは最後に爪先を甘く噛んで指を口から離した。


「四つん這いになれ」








***


「あっ…やだ……こわいっ…」
「大丈夫だっつの、ほら」


 ぐっと指先を押されて、僕の中に入り込む。もちろんそれは僕の指で、四つん這いになって僕は自分の指を一本、呑み込もうとしていた。


「あぁっ……やだぁ…入ってる……」
「入れてんの」


 驚きと恐怖から先に進めない僕を無視して、梓さんはさらに僕の指を押し込むように手を動かした。ずりずりと入り込む指。僕にはナカの感触なんて初めてで、頭がチカチカと瞬いた。


「ほら、出し入れしてみ」
「うぅっ……」


 迷っていると梓さんに催促されて、言われた通り、ゆるゆると指を動かすと、引くたびにずりずりと指に纏わり付いた肉ビラが引っ張られ、それがたまらなく気持ちよかった。ぎゅうぎゅうと指を締め付ける肉壁の感覚も初めてで、指先すらも性感帯になったかのように感じてしまい、僕は頭が真っ白になり、気づけば休むことなく指を動かしていた。


「はぁっ……ぁ、ぁ…ン…ふっ」
「蓮、もう中指も入れて」
「っ、はいっ……」


 一度人差し指をギリギリまで抜き、今度は中指を添えてまたナカに入り込む。さっきよりも質量が増えた分狭そうにぎちぎちとしていた。


「入れたまま指を曲げてみろよ」
「んぅっ!はぁっ…あ、あぁっ!はっ…やだぁっ」


 全身に突き抜けるかのような快感。その感覚には覚えがあった。僕の気持ちいいとこだよと、梓さんが弄る度にこの感覚を味わっていた。いわゆる前立腺と呼ばれるものだった。
 僕は取り憑かれたかのように、激しく指を出し入れする。たまに指を曲げてあのポイントに当てたりして、間違いなく指一本だけの時よりも快感は鋭かった。


「なにが嫌なんだよ、そんな激しく出し入れしてるくせにさあ…俺には全部見えてんぞ」
「あっ、やだっ…見ないで、おねがいっ」
「見ないでって……蓮が見せてるんだろ?」


 恥ずかしくて額をテーブルに押し付ける。その体制のままうっすら目を開くと、胸の突起は真っ赤に腫れ上がって主張をし、僕の愚息から出る液体でテーブルに小さく水溜りができているのを見つけてしまった。
 梓さんにお尻を向けて、自分の指を突っ込んで気持ち良くなって。本当に恥ずかしい。馬鹿みたいに感じて濡らして、身体を熱くして喘いでる。


「んっ、ぁあっ…あ、あ……」
「…すっげぇ興奮する…なぁ蓮、今ナカどうなってる?」


 その声に顔を上げて振り向けば、ソファーに座った梓さんの顔は興奮の色に染まっていた。眉間に皺を寄せて目元は赤く染まり、心なしか息が上がっているように見える。その表情を見たら最後、僕は熱に浮かされたように口を開いていた。


「……は…すごく熱くてっ…やわらかいけどぎゅうぎゅうしてて…あぁっ、きもちいとこ押すともっとぎゅってして、すごい…ですっ…!」
「へぇ……」
「あっ……でも、僕、おく…奥好きなのに届かないっ…んぅっ……梓さん、あずささ、ん!奥届かないよっ…」


 きゅんきゅんと穴の入り口がヒクつくのが分かる。それは明らかな期待で、頭の中で梓さんにして欲しいことをいっぱい考えては身体がそれを待ち望んでいた。


「……ぅっ、ンンッ…あ、梓さんっ…」
「なんだよ蓮…」
「足りないっ、梓さんが足りないよ……っ、一人でするのやだ…」


 後半はもはや若干泣いていた。頭ではいつも梓さんに与えられるなにも考えられない位の快感を想像してしまっているから、自分で愛撫しても気持ちよさは中途半端で、なにより心が満たされない。虚しい。思いっきり梓さんを感じたい。触りたい抱きつきたいキスしたい奥にたくさん感じたい。
 バケツいっぱいに溢れた想いはもうすでに零れ始めている。


「蓮、俺にどうされたい?」


 梓さんは僕がいっぱいいっぱいなのに分かっているにも拘らず、焦らして焦らして求めさせる。ほんといじわる。


「っ、あ…ナカ、なかいっぱいに梓さんを感じたいっ……僕のなかいっぱいにしてほしい……いっぱい触って欲しいっ、ぅんっ……キスも、いっぱいしてほしい」
「おねだり上手だなあ、蓮は」


 ガチャガチャとベルトを外す音が聞こえて、その次には指を抜かれ、その場所にピタリと熱く固いものが宛てられた。


「欲しいか?」
「はいっ……」
「じゃあ最後にひとつ、俺のこと梓って呼べ」
「あぁっ…でもっ……!」
「いいから」


 梓さんを”梓”と呼ぶことに抵抗はあったものの、耐えきれなくて頷けば、瞬間僕のナカを梓さんが貫き視界が真っ白になった…ーー






***


 ーー…頭を優しく撫でられている気がする。触れているところからじんわりと伝わるぬくもりが暖かくて思わず縋ってしまうと、誰かが少しだけ笑っている声が聞こえた。


「目を覚ましたか?」
「……ぁ…」


 ぼんやりとした思考のまま瞼を持ち上げると、いきなり梓さんの顔と天井が見えた。キョロキョロと見渡せばここは先ほどのソファーの上で、なんと梓さんに膝枕をしていだだきながら、しかも頭を撫でてもらい、ぐーすかと僕は眠っていたようだ。
 だんだんと覚醒していく。やばくないか僕、調子に乗ってるだろ僕。いつまで梓の御御足に頭を乗っけているんだ!


「あっ、す、すいません!」
「いい。いいから寝てろ」


 慌てて起き上がれば、添えてあった梓さんの手が逆方向へ力を働かせて僕は起き上がることができず、また梓さんの膝枕へと戻った。
 身体が重く怠い。特に人に言えないような所がヒリヒリと痛む。けれどベタつきなんかは感じなかった。梓さんが拭いてくれたのだろう。


「あ、あの…ありがとうございます…」
「なにが?」
「後処理とか……この状況とか………」


 ゴニョゴニョと喋っていたら、真上の梓さんが笑った。


「……顔真っ赤だぞ」
「だ、だって…!恥ずかしいじゃないですか…梓さんに…」
「梓」
「………」


 間を開けずに訂正する梓さん。その目力がすごくて居た堪れなくて視線を右往左往させる。


「……っぁ、梓…に寝てる間色々していただいて…」


 慣れない名前呼び。恥ずかしくて小さくなってしまったけれど梓さんの耳にはきちんと届いたようで、梓さんは満足と言ったように不敵に笑った。


「それはいつもしてるし、慣れろ」
「慣れませんよっ!……それに、膝枕なんて…嬉しすぎます………」


 梓さんと距離が近すぎて、嬉しすぎて息が詰まる。窒息死してしまいそう。
 じっと見下ろされるのが恥ずかしくて両手で顔を隠したら、その手の上から梓さんの手が重なり、優しく上へと這い、前髪をかきあげるように髪を梳かれた。


「蓮の髪は柔らかいな」


 薄く開いた指の間から、優しく目を細めて笑う梓さんが見えた。








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