他意なんかない これはこの猛暑のせいだ。 だから通学で自転車なんて乗りたくなくなったし、家の近くにバス停がある上に少しでも冷房の効いているバスがいいと思うのは当たり前のことだ。 他意なんてない。 「おりょ、なっつのー!奇遇だなぁバス停で会うなんて」 「…武藤、さん」 「なはは徹でいいっての。お前そう言えばチャリ通じゃなかったか?」 「暑いからバス通にする」 「あーなるほど。夏野暑いの苦手そうだもんなぁ」 そう言ってへらりと笑ったこの男は、片手を扇子にして仰ぐ真似をする。 この男、武藤徹は、自分よりも奥まったところに住んでいる。けれどその近くにバス停はないので、このバス停まで当然出向くことになる。しかもバスのダイヤは通学時間だからと言っても限られているので、やっぱり一緒のバスに乗る確立が高くなる。これは全て、必然的なもので、俺がどうこうしようと変わることじゃない。 だからそこに、他意なんてない。 「だからっ名前で呼ぶなってば…!」 「なはは、可愛いのう夏野」 「か、わ…っ!?」 くしゃりと撫でられる。顔が熱くなる。当たり前だ、子供扱いされたら誰だってこうなる。こうなる。こうなる! だからこの熱にも他意は、ない! 「むと…っ徹ちゃんの、ばか!」 ああもう、ああもう! back |