可愛いことも困りもの




夏野が酔っ払った。


ことの発端は俺の親父にあり、この結果の元凶は俺自身なのだが。
ほら男なんだからちょっとは付き合えだなんて、平気で未成年にお猪口を渡してきたのは俺の父親。
それを言うなら夏野だって男だろ!ほらほら夏野飲んでごらーんなんて、子供扱いされるのが嫌いな夏野を挑発したのは俺。
なんとなく夏野は酒が強そうだなぁと思っていたのだが、どうやらその予想は外れたらしい。
お猪口に注がれた分を口にした夏野は、数分でそれこそ、へにゃんという効果音がつくのではないかというほどに、酔っ払ってしまったのだ。
これは親父も予想していなかったのか、慌てて母さんに見つかる前に部屋に!だなんて自分の父親ながら現金なやつだと内心舌を打ったが、夏野の気の抜けたような「あはは徹ちゃんにそっくり」という言葉にがっくりしながら夏野を部屋に運んだ。
そして、今に至る。

「とおぅ、ちゃ、」
「ちょっ待つんだ夏野!離れて!離れて!!」

ちゃんと夏野には布団があるだろう、なんて諭しても聞きやしない。
俺の胸元に顔を擦り付けて名前を呼ぶその様は実に可愛らしいのだが、正直な話普段とのギャップに俺自身の精神が追いついていかない。
背中に回された小さな手に必死に理性と格闘していたら、気付かないうちにもう一方の手で頬を撫でられる。
え、と見上げれば、見慣れた端整な顔が見慣れない妖しい笑みを浮かべていた。

「徹ちゃん、唇柔らかいね。気持ち良さそう」

そう言って唇を撫でられた後に降ってきた熱に、俺の頭は真っ白になった。
目を丸くしたまま夏野をずっと見上げていると、一回にやっと笑って俺を見て、脱力したのかそのままベッドに沈んだ。
残されたのは状況がまだ掴めていない俺だけ。



「…………う、わ……うわぁぁ……うわぁぁあああー…!!」



徐々に唇に感じた感触がまざまざと思い出されて、顔に熱が集中する。
寝ている夏野を客用の布団に放り投げ、勢い良く布団を頭から被った。
全身が心臓になったかのように、ばくばくとうるさい。
ああもう、夏野のばか、ばーか!!!







朝起きた君のいつも通りの不機嫌な顔にこんなに安心するなんて!






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