悪い人じゃないことは分かるんです、なんとなく。ただ厄介なことに、彼にとっては意味のない嘘は呼吸をするように零れ出ていくもののようで、何だろう、悪意がないのが余計にタチが悪いといえばいいんでしょうか。とにかく毎回ころっと騙される僕も僕で大概といえば大概なんでしょうけど。まあ。
とにかく彼は油断ならない相手だと思うわけです。
だから悪い人じゃないですけど、やっぱり苦手です。
「中谷、すーき。」
後ろから抱きかこむように腕を首に回し、軽く体重をかけながら端正な顔を寄せてくる彼に、騒ぎだす胸の鼓動を抑えることができない。頬がくっつくくらいの距離だから表情はわからないけれど、声は笑っているのだ。
「大好きだよ。可愛いよ。」
いやだいやだ、顔が熱い気がするのはきっとこんな状況に慣れてないせいであって決して彼のことが好きだからでは断じてない。
「嘘つきの俺の言葉なんて信じられないかもしれないけど、俺は本気だからね。」
一瞬だけ、こんな嘘つきの言葉を信じてしまいそうになった。嘘じゃなければ、どんなに嬉しいだろうかと思う自分がいる。首に回された腕の、袖を掴む手に力が入った。
「好き。」
本当はわかっている。嘘つきだけど、人を傷つけるような嘘は言わない人だと。嘘じゃないって知っている。
でも、それを認めてしまったら、
きっと彼をなんとも思っていない別の人ならいつもの冗談と軽く受け流せるのだろうけど、駄目なのだ。ずっと気になっていた、目で追ってしまっていた、気づいてしまったから。
いつも見ていたから知っている。でも、それじゃ、まるで、
恰も僕がきみを好きみたい
じゃないですか。