「最近彼女でも出来たの?」
振り向けば、満面の笑みを浮かべた友達が。



デジャヴ…ではなかった



「え?なんで?」

俺の席の後ろに座る彼に振り返り聞けば、やっぱり笑顔でとても楽しげに話し出す。彼の名は基山ヒロトという。同じサークルで、そこそこ仲が良い。

「だって、夏彦も言ってたけど茂人ったら最近前以上に放課後付き合い悪くなったよー?飲みに誘っても絶対来ないし。それに、時々携帯開いてすごい幸せそうな顔してる」

そうだっ、携帯見せて!と携帯を奪おうとするヒロトに慌てて携帯を隠す。普段ならそんなに慌てたりしないと思うのだが、慌てたのは今の携帯の待受が晴矢だからだ(先日カメラ機能について聞かれた時に試しに撮った時の晴矢の画像が凄く可愛かったから…)。見られたらヒロトの事だからこれは誰だと深く探索してくるに違いない。
しかし…やはりヒロトは色々と鋭い。注意しなくては。

「ん、何で隠すのさ」
「普通他人に携帯は見せない!」
「そう?」

何だ、つまらないの。そう言ってヒロトが帰宅の準備を始めたので、俺はわざとらしく溜め息をついて(最近癖になった気がする)ノートや筆記用具を鞄にしまった。

「ねぇ、今日俺の家に来ない?」
「何か用でもあったか?」
「昨日実家からじゃがいもと人参箱で送られて来たんだけど」

ヒロトの家では野菜を栽培していて、去年からヒロトに送られて来た野菜のおすそ分けをしてもらっていた。今日は晴矢とゲームをする約束をしているので早く帰ってやりたいが、食材をタダで貰えるとなれば生活が楽ではない学生としては断る訳にはいかない。俺はそのままヒロトのアパートへ向かう事にした。



ヒロトのアパートは大学から歩いて15分程の距離にある。俺のアパートより広くて綺麗だ。去年はよくみんなでヒロトの家に泊まって騒いだっけな。
野菜を貰ってそのままそそくさと帰るのは失礼だし、また色々探り聞かれかねないので、お茶を一杯貰うことにする。別にヒロトが嫌いなわけじゃない。良い友達だと思ってる。ただ、晴矢が心配なだけだ。うん。
お茶を飲みながら、好きなバンドの話になり新曲のCD買ったけど聴く?と、音楽を聴きながら話に花が咲く。ふと時計を見ればもう16時、そろそろ帰らねばと思い、トイレを借りて帰ることにした。

リビングから出てすぐの所にあるトイレ。取っ手に手をかけ、空ける。目の前の光景に、俺は思わず思考も動きも停止する。俺でなくともきっと誰しもがこうなるに違いない、目の前の光景に似たものを俺は見た気がする。


猫耳の、少年だ。
薄い水色の髪から真っ白な猫の耳が覗いている。目線を下に映せば、ズボンから尻尾も出ていた。トイレから出る途中だったのだろうか。少年の見開いた蒼の瞳と膨らんだ尻尾が驚きを表していた。お互いに見つめ合ったまま固まる。

「あれ、どうしたの……あ。」

ヒロトが現れて、俺と少年はハッと我に返った。少年はわなわなと身体を震わせてヒロトの胸倉に掴みかかる。

「ヒロトどういうことだ!人が来るなんて聞いてないぞ!すっ、姿を見られただろう!!」
「風介隣の部屋にいるからいいかなって…いたっ、痛いよ風介っ!ぐ、ぐるし…っ」
「何でお前はいつも適当なんだ!そういう適当な所が命取りになると何度言えばっ…」

少年がヒロトの首を締め上げる。ヒロトの声が段々息の詰まったものになってくる。何てことだ…可愛い顔してバイオレンスすぎる…。あまりの気迫に俺はただ呆然とその光景を見ているのであった。



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