飼うなら犬より猫の方が大人しいから楽だぜ。
なんて言ったのは、どこのどの猫だったか。



可愛い猫ほど手がかかる



「ただいまー…」
「おっ、茂人おかえり!」

晴矢と衝撃的な出会いをして飼う事になったあの日からかれこれ一週間が経った。
誰かと一緒に暮らすというのにも慣れ、家に帰って誰かが出迎えてくれるというのも中々良いものだな、と思うようになった。
男(雄?)相手に言うのも可笑しいのかも知れないが、晴矢は可愛い。この何とも言えない癒しを味わう為に世の動物愛好家達はペットを飼うのだなぁと、今なら共感出来る。

ただ、ペットのデメリットも、日々増して感じるようになる。
確かに晴矢は可愛い。可愛いんだけれど、…

「はぁ…晴矢、何この部屋…」
「!あ、あぁ!今片付けようと思ってたところ!」
「…この作り置きの食べ残しは?」
「え、えっと…お腹いっぱいになって、」
「ふーん…ピーマンは美味しかった?殆ど残ってるみたいだけど」
「それは、えーっと…その…」

晴矢は、本当に言うことをきかない。
遊んだゲームや漫画は遊んだまま、作り置きしたご飯は嫌いな物が入っていれば食べない(今の所分かっているのは、ピーマンと椎茸が入っていれば必ず食べないと言う事)、開けた扉は開けっ放しだし、酷い時は冷蔵庫だって開けっ放しだ。
(流石に電気代が勿体ない!と本気で怒ってしまった)

帰って来た俺に言われて初めて慌てるあたり、本当に俺にこうやって毎度注意されても忘れてしまうんだと思う(食べ残しは確実にわざとだけれど)。
まあ、生まれてからそう躾られて生きてきていないのだから、出来なくても仕方がないのだけれど…正直、毎日毎回こうだと気が滅入ってしまう。

しゅん、と耳と尻尾が下がる。
俺と目を合わせるのが気まずいのか、目線は横に流している。
そんな顔しなくても…またかとは思ったけど、そこまで怒ってないんだけどな…

「…ほら、片付けるぞ」
「おう…」

はい、と漫画を渡し、本棚に持って行かせる。
俺は台所の乾ききったふきんを手に取り濡らして絞り、これから食事をとるこたつの上を拭いた。
その時ふとこたつから出ている電源が付きっぱなしのゲーム機が目に入り、また電源付けっぱなしにして…と言いわざとらしく溜め息を吐き、ゲーム機に手をかけようとした。

「わっ、ちょ、それ待って!」
「ん?どうした?」

そしたらそれに気付いた晴矢が慌てて駆け寄って来た。
(また中途半端に本を入れるから本棚はぐちゃぐちゃになってるし…)
見て!これ!と指を指した先は、俺が電源を切ろうとしたゲームだった。

「これ、一昨日茂人が勝てないって言ってたやつ!勝ったんだぜ!」

すげぇだろ!と笑顔で自慢げに話す。
嬉しいのか楽しいのか、さっきまでしゅんとしていた耳と尻尾はぴんと立ち右へ左へと大袈裟に揺れていた。
そんな晴矢が何だか面白くて、吹き出して笑ってしまう。

「?」
「はは、いや…凄い凄い」
「だろっ?」

ほら!この装備!かなり強くなったぜ!
嬉しそうにゲームを弄りだす晴矢に、何だか片付けなんてどうでも良くなってしまい、わしゃわしゃと晴矢の頭を撫でて立ち上がる。

「お腹空いただろ、夕飯作るな。夕飯食べたら片付けだぞ。」

今日は、晴矢の好きなものを作ってやろう。
俺は本当に晴矢に甘いな、と苦笑しつつ、楽しそうな声をBGMに夕飯の準備を始めたのだった。




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ちなみにゲームは多分モンハンあたり。