欲しいものは何でも手に入った。物心つかないうちに両親に捨てられた俺を父さんは拾ってくれて、抱きしめてくれた。親など最初からいなかったようなものだから淋しいという感情なんてなかったけれど、父さんに抱きしめられると胸にぽっかり空いた穴を埋めてくれる気がした。父さんは俺に名前を与えてくれて、サッカーボールも部屋も、俺が望む物は何でも与えてくれた(欲しいと言葉にしなくても良かれと与えてくれた)。
小学生に入ってから、担任の先生に「ヒロトくんは偉いわ、お母さんもお父さんもいないのに強くて…可哀相にねぇ」と言われた事がある。幼いながらにも、この人は何を言っているんだろうと思った。だって俺の父さんは父さんで、寂しくなんかないし可哀相でもないんだから。

ジェネシスの座だって、父さんは俺達をちゃんと見ていてくれて、バーンでもガゼルでもなく俺達に与えてくれた。もう俺に無いものはなかった。なんだって持っていた。父さんがいて、父さんが望む強さも持っていて、大好きな父さんの役に立てる。もう俺の事を可哀相だなんて言う人はいないだろう!





「どうしてそんなに嫌がるの?バーン」

ベッドの上、父さんからの連絡を伝えに俺の部屋に来たバーンを真っ白なシーツに縫い付けた。バーンの眉間の皺が深いものになって、白のシーツに赤い髪が反射する。
俺を睨み上げる綺麗な金の瞳には少しも俺は映っていない。バーン本当に屈しない、だから好きなんだ。

「…退けろ、気持ち悪い。まだガゼルに伝えに行ってねぇんだよ」
「嫌だなバーン、俺といるのに他の男の話をするの?」
「…っち、退け。」

強引に俺を押し退けようとするバーンの肩に更に力を込める。

「…ねぇバーン、父さんは君達じゃなく俺を選んでくれたよ」
「…だからなんだよ」
「あと手に入らないのは君だけ。バーン、俺の物になってよ」
「はっ、」

俺はバーンが欲しいんだ。これはずっと願っていて、行動に移してきた。それでもバーンが屈する事も俺を映す事もなかった。寧ろ彼はガゼルを好いているんだ(多分ガゼルもずっと昔からバーンの事が好きだった)。俺には見せない表情をガゼルに見せる、俺は、ガゼルにしか見せないその表情ごと欲しいんだ。バーンが、欲しい。
俺を睨んでいたバーンは、そのまま笑って、いや、嘲笑って俺の瞳を捕らえた。
この表情はいつか、見た気がする。






「本っ当に、可哀想なやつだな グラン」





欲しいと思ったものを初めて乱暴するまであと、数秒。








こんなにも不器用、



(でも、他に方法は知らないんだ)





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ヒロト(グラン)さん大好きです
きっとこれは愛じゃないんでしょうね。