ポアントガール | ナノ



白石君をこの距離で感じるのは初めてなのに、さっき一緒に掃除したせいか薄らと染み込んだミルクティーのにおいが緊張を直ぐに落ち付けてくれた。
しかし、落ち着いてしまうと、なぜかさっきの白石君の発言が、見掛ける度にミルクティーを飲んでいる気がする、という言葉が頬を赤くさせるほど嬉しいものに感じられてきた。わたしを見掛けていたのだという。それっていつのことなんだろう。もしかすると、私が白石君に目を奪われる二秒前だったかもしれないし、わたしが白石君のことを考えていた時かもしれない。逆に、わたしが変な表情をしている時かもしれないけれど。すごいことだなって、感動みたいな。うれしいって感情。


「へえ、こっち側に自販機あったんや」

「ちょっと古めかしくってね たまにあったかいのとつめたいの逆になってたりするんだよー」

「はは、業者さんのボケかもしれへんで」

「ええ〜…、あったかいファンタは笑えなかったけどなあ…」

「そらえげつない」


お人形みたいなガラス細工のような憧れの人と、今、私はおはなししてるんだ。
白石君は意外に笑いのツボが浅いみたいでよく笑うし、話を振ってくれたりして、長い廊下がすごく短く感じて。本当はもうひとつ近くにある自販機にもミルクティーは売っている。一番すきなのが今向かっている自販機にある銘柄のものなのは間違いないけれど、すこしでも一緒に歩きたいと欲が出てしまった。のは、ばれちゃうと恥ずかしいから内緒にしとかないといけないこと。


あ、これ?白石君がお金を入れながら私に訊ねる。頷きながら、なんか、やっぱり白石君は悪くない気がするのにと申し訳無いような。というか、私が財前くんさんに何か奢ればいいんじゃないかなあ。
お金を入れ終えて、白石君が微笑む。あ。あ、いまのはすこし、かわいいなって思った。


「お好きなの、どーぞ」


そんな、格好良くて可愛い笑顔に見惚れつつ、押していいのか?としつこく悶悶。100円くらい、ありがとう!なんて笑顔で奢られておけば可愛いんだろうけど、白石君って、わたしにとってはなんだか、好きな人って前に、なんだかなんだか、神聖な人という気もしていて。そんな人に奢らせちゃっていいのかな。


「名字さん、遠慮し過ぎ」

「えっ、あ」


掌をそっと掴まれたと思ったら白石君は器用に私の人差し指を使ってミルクティーのボタンを押す。それからすぐさま、ガコンッと紙パックが落下する音。白石君が取り出し口に手を突っ込むその動きは少し男の子らしかった。いろいろな姿が次々に現れて、それがすべてカッコよくて素敵で、きらきらしているみたいで。くらくらしてしまう。これはたぶん、触れた白石君の体温が想像していたより温かかったせいというのも、あると思う。


「え?あれ、あはは、冷えとらんし ほら」


白石君の掌に収まる紙パックはいつもより小さく見えた。白石君の笑顔につられて、口元がほころぶ。受け取ったミルクティーは確かにほぼ常温だった。ひょんなことから、まさかの白石君からのプレゼントで、うれしくってたまらないのに、冷たい様で冷たくない紙パックはどうしてかすごくおかしくって。


「あ、ありがとう…!あーほんまや、常温」

「ごめんな、それでよかった?」

「や、や!全然!これね、ぬるくてもおいしいんだ」

「ほんならよかった。名字さんの言った通りやな、古めかしいっていうか…もう寿命なんちゃうか?これ」

「えっ、でも、それって困るよね…?これまでなくならないといいな」


話しながら、注ぐみたいにしてパックを傾ける。もちろん開いていないのだから、こぼれたりはしない。そんな私がおかしかったのか、観察するみたいに見てから、次いで白石君の指がミルクティーのボタンを押した。あ。おんなじだ。


「俺も名字さんとおそろーい」

「そ、そ、うだね!あ…でもこれ、たぶん白石君には甘すぎるよ」

「いいのいいの」

「いいの…?」


白石君が穏やかに笑うから、まぁそれならいいやって、白石君とお揃い紙パックの銀色にストローを刺すと、勢いで溢れかけた薄茶色。あ、ぶないあぶない。ぎりぎりのところで零れずに済んだそれに、自分の今の幸せとか感情とか、そんな色々なものを重ねた。こぼれちゃいやだなあって、ゆっくりゆっくり、丁寧に、大切に飲んだりして。





あふれてこぼれそう

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