ポアントガール | ナノ



財前君がシャワーを浴びに行って、とうとう二人きりになった廊下で、わたしの脈が尋常じゃない早さで打つ。あああ、寿命がすり減ってゆくのを感じた。
いつか友人が言っていた。『命をすり減らしてまで恋するものかねえ』。その時のわたしには友人が何を理由にそんなことを言っているのかもわからなかったし、詳しいことは今もわかんないけどさ、すり減らしてまで恋をするのもたまにはいいのかもしれないよ、友人よ。なんて口にしたらきっと何を偉そうに、って笑われちゃうんだろう。
白石君はゆるく眉尻を下げて微笑んだままで、近くで見ても綺麗で歪みひとつない繊細な顔立ちに視線が釘付けになる。その肌理の細かい肌にうっすら浮かばせた笑い皺がそのわずかな人間味を引き立たせていた。
財前君と言うあの怖い子も整ったお顔立ちをしていたけれど、彼をイケメンと言うならば、白石君は完璧とでも言うのだろうか。本当にテレビ越しの存在みたいに見える。雑誌とかにこういう笑顔でインタビューに答えてたりする人、いるいる。わあ、わあ、きれい。そんなことを思っていたら、ひょいと覗きこまれてまた少しだけ距離。それだけで顔にじわじわと熱が集まってくるのを感じた。


「…っわわわ」

「どうしたん?俺、そない笑い取れそうな顔しとるかなぁ」


くすぐったそうに言う白石君は多分自分の美貌を少なくとも自覚している。何度も聞いた褒め言葉に、毎朝鏡で目の合う自分の顔なはず。でも、なんだか、朝起きて顔洗いに行ったらこんな綺麗な顔が見えるなんて、なんだかなんだか。ずるいなあ。ああでも自分の顔だから本人はそういうふうに思うこともないのか。勿体無いなあ。
そんな彼でも、顔をずっとジロジロ見られては不快だろう。流石に失礼だったと気付いてハッとする。でも、白石君が綺麗過ぎるからいけない。ここは譲れない。美しさは罪なんだよ、白石くん!心の中で叫ぶけど、届くわけもなく。あー、でも、届いてたら届いてたで焦るなあ。だからわたしたちには心を読むっていう機能が備わってないのかな?て、白石くんだけには備わっていたりして。うん、これだけ恵まれた神様のご加護を受けてると言われても納得するしかないような人なんだから、有り得るなあ。ん?ありえないか。ああ、そうじゃない。視界を床から白石くんへと切り替えた。


「あ、ご、ごめんなさい…」

「謝ることないけど、はは 名字さんと初めて喋ったと思うけど、ちょっぴり挙動不審?おもろいわ」

「えっ、そんなことないと思うんやけど…」


仮に今の私が挙動不審なのだとしたら、それも間違いなく白石君のせい。この間まで、名前も知らなかった白石君なのに、こんなに近くできれいで優しくふわって笑うから、さっき拭いた大好きなミルクティーの匂いが彼のミルクティー色の髪から香っているんじゃないかなんて考えてしまう。ああ、ミルクティー、飲みたいなあ。


「えー、と白石君、あの、ミルクティーは 好き?」

「え?」


白石君の素っ頓狂な声に、やっとわたしが言ったことの唐突さを理解した。えええ、何を言ってるの、わたし。好き嫌いのはなしするにしてもいきなりすぎた。冷静じゃない。それくらい自分でもわかる。


「あっ…ちがう!ごめんね間違えたん!意味わからんよね気にせんで…!」

「ん、好きやで わりと」

「えっ、あ、」

「甘くど過ぎるんは苦手やけどなー」

「そ そうなんだ」


予想外に続いた会話に、恥ずかしかったのが紛れて内心ホッとする。私はいくらミルクティーでも、くどいくらい甘くないと飲めないから。私と少し違うね、と言いながら、紳士さんな白石くんには確かにストレートティーとかの方が似合うかもしれないなと思った。ストレートティーは私にはすこし大人味すぎる。でも、カップを手にする彼を想像したら、あまりにも画になりすぎて、それだけで顔が熱くなった。「……あ」ふと、白石君がにやりと笑ったような、そうでないような。彼がひとつひとつの気持ちを表情筋に乗せて浮かべる度に私の心臓が跳ね上がり伸縮しドキリと音を立てる。


「もしかして、名字さん、ミルクティー飲みたいん?」

「へ?」

「結構零れてしもたやろ。足りひんのとちゃう?」


なんだかいじわるな顔。やっと言葉の真意を飲み込んで、えええ。どうしよう、食い意地っていうか飲み意地?張った奴だと思われてる。好きな男の子にそんな風に思われるなんて、乙女名字名前、一生の不覚。


「そ、そんなことないよ!ミルクティーって結構お腹に溜まるし、足りてる足りてる」


こんな時だけ女の子らしく言い訳。本当は飲みたいなあと思ってたぐらいだけど、なんとなく。なんてモジモジやってたのに、「見かける度にミルクティー飲んどる気ぃするし、全然足りてへんやろほんまは〜」なんて。すごく自然に茶化すみたいに笑うから、なんだか近しい関係になったような錯覚に、女の子らしく…なんて最初から意味もなかったみたいで。てかてか、見かけられてただなんて。今後のミルクティーを控えることを検討する。いやぁ、うぅん、むりかなあ。


「名字さんが飲んどるミルクティーてどこの自販機にあるん?奢るから、行こ」

「え?!そういう流れじゃないよ、いいって足りてます…!こぼれたのだって自分のせいなのに、白石くんに奢らせるなんて、ほんま」

「財前やって元はと言えば俺のせいやって言っとったやろ?お詫びさせてほしいだけやし、な?遠慮せんで」


何を言っても譲らない勢いで何かと断りづらい理由をつけて私にミルクティーを奢りたがる白石くんに根負けして、まぁ悪い話じゃないなあ、白石くんともう少しお喋り出来るならいいかなあ なんていつも通りの浮かれた思考。確かにミルクティー足りてなかったし。





しあわせをもうひと匙






白石くん無理矢理感すごいし恩着せがましいけどこれはモアプリで感じたことを参考にしただけだからわたしゃ何も悪くない

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