ポアントガール | ナノ



バイバイと校門からすぐの交差点で手を振って別れる前に、白石君がメールアドレスをおしえてくれた。
名字さんおもろいから、なんて、お笑いカリキュラムから何ひとつ得るものがない私に対して、彼は少々ふしぎな理由を挙げていたけれど、理由なんてなんだってよかった。うれしくて、うれしい。
こんなトントンと進んでしまって良いんだろうか。いや、ゴールなんてないけど、平坦で、だけど宝石を敷き詰めたようなキラキラな道なのだから、どこまで進んだって、変わらずしあわせなのだろうけど。でも、こんなのってやっぱりラッキーすぎて、ここらですごく不運なことに出会うんじゃないかと、帰り道は、明るい商店街も、近所の公園の前も、慎重に慎重を重ねて歩いた。
ドキドキして躊躇って、「登録したよ」と使いやすくてお気に入りのチューリップの絵文字をつけて送信したメールが夜の六時半ごろ。「ありがと!」っていう返信が来るまで七分。たった五文字の、計十文字の、ただの挨拶みたいなメールなのにドキドキが鳴りやまなくて心臓が窮屈で携帯が気になって、気にしたくなくて、つらいとまで感じた。なにこれ。
友人に八行のいわゆる相談メール送ったら、二分後に、返信が三行で返ってきた。これは全然心臓がつらくもならないのに。ふしぎでたまんない。これが恋なのならこの世のありとあらゆる恋多き女の子達ってすごいなって思った。


「めっちゃ恋やん。告白したらいいんとちゃいますか」シンプルな返信に、恋かと頷いた。果たして恋というものが、モテはしても一向に匂わせないような友人にわかるのか?なんて、最近知った私にそんな偉そうなことを言う権利はない。それよりも、後半の文字にびっくりして、心臓がばくりと飛びあがって、もう友人の恋愛観だとか、それどころじゃなくなってしまう。


「こ、告白ですか…?!」


一人言がオーバーすぎて自分で恥ずかしくなってから、そんなこと思い浮かびもしなかったと考える。さすがは友人、物事を冷静に見ているなあと。ちょっと面白がっているのはわかっているけれど。
それにしたって、難しいことを言うなあ。

告白かあ。この人生でそんなこと一度もしたことがなかった。好きな人がいなかったのかと聞かれると、たぶんそうなのだ。もちろん小学生のときにいつも目でおっかけていた男の子の存在はあったし、そういう時期はあったにしろ、それが告白にまで発展するほどのもの、つまり恋だったとは思えない。当時は恋だったのかもしれないけれど、そんな感情に名前がついているとも思わないような幼いわたしだったのだ。

じゃあ、この恋は?告白をするべき?
そんなこと、考えなくたってわかる。だって今は、恋の仕方が分からない私でも、この感情の名前が恋だとわかっている。甘くてあったかくて複雑でむつかしいこれが、憧れの、ガラス細工のような白石君への、恋っていう気持ち。意識すればするほど照れてしまう。私、いつの間にかすごく白石君のこと好きになっているみたい。それは積み重ねた日々によるもので、今日の夕方の思いがけない接近によるもので。
気持ちを伝えないといけないんだ。いつまでもミルクティーをかき混ぜていたって、ぬるく苦くなってしまうだけだもん。うん。きっと、そういうことだよね。ね、白石君。


何もしなければ平和なままだ。キラキラの、ミルクティー色の宝石の平坦な道で、自ら転びに行く。それでもいいんだ。


「よし!思い立ったら吉日!ってやつ!」そんなメールを友人に得意満面な絵文字付きで送りつけた。なんていうのは言葉のあやだから、さすがに思い立ったからといって今日いきなりメールで告白なんてできないんだけど。伝えるなら直接言いたいもんね。そうと決まれば今日は寝る前にミルクティーを飲むことにしよう。お気に入りのマグカップで、あったかくて、特別に濃いあまいやつ。
ミルクティーを飲んで、まどろむ思考で明日白石君になんて言おうかな?ってたくさん考えた。初めて見た時は夢みたいだって思ったよ。好きってわからないくらいすごくきれいで、きらきらしてた。色んなところを知って、憧れじゃなくて神様みたいな存在じゃなくて、男の子として大好きになった。テニスをしている姿は他の誰よりも格好良かった。並んで歩いた廊下が短く感じて、おそろいのミルクティーがうれしかった。幸せすぎた。そうだ、どんなに緊張したとしても、大好きと、それとありがとうは言おう。
どんどん重たくなる瞼が心地よくて、お腹の中があったかい。明日はきっといい日になる。幸せな片想いが、今日で終わる。





あなたが好きです



あとがき
告白まで書くか迷ったんですけど…!どちらでもヒロインは幸せそうなので、どちらでもありかなと思うと、片想いのお話でいいかなあと思いました。纏められると感じたタイミングでむりやり締めたと言った方が正確ですが。ミルクティーミルクティーしつこい話ですみませんでした。この話書き始めてから、超甘いやつ限定ですがミルクティーが飲めるようになりました。それでは、最後までありがとうございました!   130728 花本


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