つばさがない | ナノ




教室で見慣れた青髪に出会った。
出会ったというか、出迎えられたというか。同じクラスじゃないけど、どうやら俺に用事があったからとクラスに来ていたみたいで、侑士はもう帰るところだったと笑った。別に帰ってくれててよかったのに、なんて。

「また上行っとったん?」
「そーだけど」
「物騒やで、」

きっとそれは幽霊とかそういう意味だったんだろうけど、何も考えずに頷いて席に着いた。女子が死んだ。一週間前。同じ学年の、普通の奴だった。かわいくてゆるりと微笑んで、友達がいて。普通の、不幸せなことなど何もない女子に見えていた。ニュースになった。通夜があった。たくさんの人が泣いていた。俺の友達にも泣いてる奴がいた。好きだったんだと、言っていた。でももう遅いんだ。そう言った友達が痛ましくて見ていられなかった。どこもかしこもの会話が減った。不謹慎かななんて思うと話したかったはずのことも蒸発してしまって、俺のメールの数もグッと減った。

「あ、用事だろ。なんだよ?」
「あぁせや、部活、今日もないんやって。跡部から伝達」
「まじかよー。あーでもまぁ、そっか」

そいつが屋上から落ちて、死んだのは丁度テニスコートの近くだった。緊急部停止は今日からなくなったはずだけど、一部はまだ停止期間らしい。それにテニス部も含まれたのだそうだ。そりゃ、そうだよな。死んだところから一番近いところで活動している部活だったんだから。学校で部活動を出来ないので最近は跡部ん家のテニスコート2面を交代で使わせてもらっていた。きっと今日もそうなるんだろう。部内でも、彼女が落ちてきて拉げたところをもろに見たやつがいて、それは好きだったんだと泣いていたあいつで、そいつは暫く学校に来ていない。わざわざあいつに見せるなんて、誰が酷いんだろう。死んだそいつ?神様とか、そういう系の誰か?誰でも、ない?あぁ通夜の日から一度も顔を見てないし、そろそろ様子を見に行ってやりたいな。
彼女は空を飛んだ。空から地面へ落ちた。それを飛んだというには何か足りないかもしれないけれど。


俺は空を飛びたかった。空を自由に飛ぶ鳥には手がない代わりに翼があった。俺の背には翼がなかった。ラケットを握るための手があった。理科で習ったことによると、翼と腕は進化したかしなかったかというだけの差で少し形は違うが同じ骨らしい。だからどちらかしかないのだろうか。よく絵画とかで見る神様や天使には両方ついていたりするのに。クソクソ、ずるい。翼と腕と、一緒なのに。俺の腕は翼にはならないから、跳んだ。足で跳んだ。空で飛べなかったけど、宙に跳んだ。低くても、これが精一杯で。届かない空に手を伸ばした彼女は死んでしまったけど、俺は彼女が空を飛んだのだと思っていた。

そいつが何をしたかったのかは分からない。死にたかったのか、落ちたかったのか、俺と一緒で飛びたかったバカなのか。夢が飛びたいことならばそれは素敵だねなんて言われるけど、落ちたいと言えば愚かだと言われる。殆ど同じに感じるのに、僅かに違うみたいだ。むずかしいから、考えないけど。
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