つばさがない | ナノ




後日談/読まなくてもいい感じ/
 
 
 
 
あの日から毎日宍戸を見るようになった。
あの日というのはあいつが消えた日というよりは宍戸がまた学校に来た日、だ。
部活も始まりだいぶ経って、最初はなんとなく会話が少なかったけれど、暫くするとまた何事もなかったかのような生活に戻っていった。宍戸はまだたまに淀むばかりの空を見上げるけれど、別に何も考えてないかもしれないし。慈郎がいるから大丈夫だろう。いつか空なんか気にしなくなったら恋愛相談でも乗ってやろうと思う。もちろん真面目になんか聞いてやらないけど。
久しぶりに使う氷帝のコートとか、久しぶりに見る200人の部員や、熱のこもるギャラリーの応援や、全てがなんだか新鮮で、不思議な感覚がした。俺のアクロバットは絶好調。侑士がなんか良いことあったん?なんて笑ってた。別に?俺も笑って返した。少し鈍っている様子だった宍戸ともリバビリがてらの練習試合をしたりもした。家が近い宍戸とはよく一緒に帰る。慈郎も近いんだけど、今日は何処で寝てるのか見付けられなかったから樺地に頼んで放ってきた。さすがに帰路の途中で眠ったりはしないと、おもう。俺と慈郎とだったら違ったかもしれないが、俺達が一緒に帰った所で始終ペチャクチャ喋って帰ると言うわけでもなく。不快感のない沈黙を、ぼそりと破る。

「なー」
「なんだよ」
「あいつさ、」

もごもごと口元で言葉を吐き出してばかりいる俺に煩わしいといいたげに眉根に皺を寄せ首を傾ける宍戸の頬に新しい傷があることに気が付いた。

「あいつ?」
「名字」

その名を言うと、宍戸はまるで懐かしい音楽でも聴いたかのように穏やかに傷のある頬をゆるませる。俺が知らない人のように大人っぽい表情を浮かばせる彼を見て目を細めた。なんか、格好良いな、とか。

「…ああ、」
「消えたよ」
「そっか」
「うん」

そろそろ日が落ちるのが早くなってきた空があの日みたいな鮮やかな濃い青に染まることもなくなってきた。首元に適当に巻きつけたマフラーに二人揃って鼻先を押しつけて、また沈黙が訪れる。冬の寒さは体の先をどんどん冷やしていく。耳があるのかないのかわからないくらい冷えていた。更に冷えた指先で触れると熱が伝わる。耳、あった。沈黙は俺達が黙り込んだせいだ。東京じゃ滅多に降らない雪のような、ふわふわとしたその空気はやっぱり冷たい冬の空気。
ふっと微笑んだ宍戸を振り向くと、マフラーから覗く上唇が動くのが見えた。

「あいつ、笑ってたか?」
「うん、見せてやりたかった」
「そっか。ならいいんだ」
「また好きな奴でも出来たら教えろよ。邪魔してやっから」
「うわ、絶対教えねえわ」


あいつが死んだ日のようなくすんだ空を見上げて、大きく笑った。
 
 
 
  
ついでにあとがきもかかせて
途中から何が書きたいのか話がずれにずれました。でも書きたいものが書けたのでよかったです。正直私には向日氏が中二くさく見えないでもなかったというだけの話ですよねこれはね。ハッピーエンドではなかったかもしれない。不快にさせてしまった部分があったらごめんなさい。少しでも楽しんで頂けたなら幸せうふふです。ありがとうございました!   111201 花本

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