透明で彩る | ナノ

 
 
マネージャーでもないのに毎日来るメス共。目当ては俺達。

ルックスだのなんだので、ファンだとか言うけどうせそんなのは関係がない。俺達は選手で、そこらのアイドルやコメディアンじゃないのだ。きっとこいつらはそんなこと分かっていない。そんなこと考える脳味噌はもう溶けてしまっているのだろう。俺達の中の誰もがそんなうざったい集団は興味がないのだ。ギャアギャア騒ぎやがって、いい加減邪魔になることくらい気付けと思うのだが、群れを成してしまうとそれ以外の周りが見えないのかもしれない。
この学園も学園だ。ギャラリー席が広いからこれだけ人数が集まってしまうのだ。いっそ、席数を減らしてしまおうか。

とは言うものの、そんなメス共でも、全部が全部常識知らずな人間ばかりじゃなくて。
勿論俺たちに興味の欠片もねえ奴だとか、テニスを見に来ているだけだとか他の人の方がタイプだとか、そんな奴らだって多くはなくともいると言えばいるのだ。
そんな中で、俺様のお気に入り、いや、そんな軽い言葉では片付けられない。認めてしまおう。これは本気だ。俺には本気で好きな奴がいる。

「けーちゃん、良かったなあ。また来とるやん、雫ちゃん」

いつの間にいたのか、忍足が隣でニヤニヤしながら話し掛けてきた。そう、忍足が口にした「雫ちゃん」、が、俺の好きな奴。雨月 雫。
大人しそうな、優しそうな奴。
実際優しいし、他の女とは違い、話していて変に気を遣ってきたり騒いだりして来ないからある意味俺の中では特別な人間の一人だった。そんな理由で、俺はそいつとよく喋るから、いつからか跡部さん、雨月、だった呼名は跡部君、雫、に変わっていた。そんな、俺達へ「格好良い!!大好き!!」以外の感情を向ける人間はいくらでもいた。教師は一目置く程度でそれ以上の感情はなさそうだし、俺のことが嫌いな人間だって、興味のない人間だって、騒がない人間だって。たくさんいる。
雫はその中間で、俺達に興味があるようだけど騒いだり犬のようにあとを追っかけまわしたりしない。サラサラとしていて味のある水みたいだった。

「うるせえな…気色悪りぃ呼び方すんなっつってんだろーが」
「せやったっけ?」
「いいからさっさと練習に戻れ」
「俺の練習相手知っとって言うとるん?」

そう言われて、今日のトレーニング内容を思い出そうとする。
忍足とラリー練習をやる奴は、誰だ。

「……俺か。悪い。じゃあ始めるぞ」
「はいはーい」

最後にギャラリー席で座っているを見ると雫と目があった。少し微笑むと控え目に笑い返してくれた。こんなことでさえも幸せな俺はもう。

ああ、俺はもう、末期かもしれない、なんて。

「何ニヤニヤしとんの。きっもー」
「あん?もういっぺん言ってみやがれ」

冗談やて、と笑う忍足は気が付いていないのだろうか。自分も雫のことを見つめていることに。興味があるからみているのか、俺が見ている相手だからみているのか。俺にわかることじゃないけれど、きっと前者で、女遊びが趣味のようなこいつのことだから自分の中の感情に気付けない程鈍感ではないだろう。俺がアイツのことを好きなのを知っていて手を出さないだけ。
きっと、そうなのだ。

「ほら、さっさとコートに入れ」
「跡部が遅かったんやんー」

きっと、そうなのだ。



信じてみましょう

prev//next