透明で彩る | ナノ

 
 
ああ、きっと、今のうちの顔は飲酒でもしたかのように真っ赤なのだろう。

目の前の白石先輩にまともに目もやれずに俯き加減で差し入れのレモンの砂糖漬けを差し出す。それ程長くもない前髪の隙間から白石先輩を臨めばやはり綺麗で、爽やかなそれ。白石先輩がうちの差し出したそれを受け取る。あ、手が触れた。今の一瞬で更に顔赤くなったのがカァッと頬の熱で分かった。

「いつもありがとなー。でも、いつも作るの大変やない?」
「あ、いえ!ほんと、そんな、凝ったものは作ってないんで…。いつもこんな見栄えしないものですみません」
「いやいや、練習の疲れも杏ちゃんの差し入れでぶっ飛ぶで。他の子のは幾ら凝っとっても脂っこかったりしてなあ」

最後の方を濁すように、苦笑いで。うちの差し入れたレモンの砂糖漬けの入ったジップロックの蓋を開ける白石先輩の細くて長い綺麗な指がレモンをつまんで、先輩の口の中に放り込まれた。なんかうちってば、変態みたい。他のギャラリーの子の歓喜と悲鳴が轟く。そもそも、練習の合間に白石先輩達と話すことが出来るなんて周りから見てみればすっごく羨ましくてたまらないことで、そんな機会が他の子達よりもずっと沢山あるうちはとてつもなくラッキーで、でもまだ慣れなくて、先輩に綺麗な華やぐような笑顔で話しかけられる3年生の先輩達も最初はこうだったのかななんて、それともうちが特別恥ずかしがりすぎなのだろうか。きっときっと、これは後者だ。だってうちは。

「ん、おいしいわ。また作ってな」
「あ、は、はいっ」
「はは、杏ちゃん、顔真っ赤や」

いたずらに声を立てて笑う先輩にみとれそうになったけれど、その前にもう最上限に真っ赤な顔が更に熱くなった気がして、手で覆う。財前君が、気障だなんて言って舌打ちをした。気障なことも白石先輩は似合ってるから、許せちゃう。そういったらきもちわるいって言われるんだろうな、残念ながら否定はできないけど。

「な、気のせいですよ…!!じゃあまた、作って来ますね!」

爽やかに笑う白石先輩に、それじゃあ練習頑張って下さい、と精一杯の声援を残して校舎へ走った。後ろから友人の声が追い駆けてくる。嬉しさが喚く。心臓が飛び跳ねる様に脈を打つ。おいしい、また作って、だって。彼女でもないうちだけど、先輩があんまり優しいからいつも困るんだ。いつか向かいじゃなくて、隣で、笑いたいんだけれど。難しいかな、それでもいいな。


甘酸っぱいかどうかなんてよくわからないけれど、こんなにも些細なことで幸せで溢れるこの恋愛はうち一世一代の、。

「大恋愛だ……」



人生とはたった一つの恋に必死になることなのです

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