透明で彩る | ナノ

 
 
氷帝学園の王様が、笑ってまうわ。
跡部は雫にベタ惚れ。しかし虚しくも雫は俺の女。いわゆる三角関係だとかなんて、ドロついた恋愛小説はあまり好きでなかった。こんなにも完成できないパズルが他にあるのだろうか。俺が好きな女を俺の友人もまた好意に満ちた目で見ていて、でもそいつは俺や友人ではない誰か別の人が好きで、何も知らない俺達は振り回される以前の話でしかない。それに関して言えば俺は跡部より数歩リードといったところだろう。跡部と雫の関係がゼロならば、俺と雫はサンあたりくらいにはなるのではないだろうか。まぁ、その程度の差だが。愛されてなどいないという面では、俺も跡部も同じライン。我ながらにこんなの可哀想でしかないと思う。それでも俺は、この関係を断つ気などない。

「けーちゃん、良かったなー。また来とるやん、雫ちゃん」

俺がそう言った時、跡部の頬が僅かに緩んだ。直ぐにムッとした表情になりはしたが、随分青臭い。鼻の先がムズムズする様な、そんな感覚やった。


俺は最低、なんやろか。今まで何百何千と言われてきたが、自分でそうと思ったことはない。他人の女をとったからなんやっちゅーねん。彼氏が居るのにもかかわらずホイホイと着いてきて、その上俺に惚れる女の子が悪いんや。そんでそれ以前に、彼女に簡単に乗り移られるような男が悪いんや。俺は何一つ悪くはない。少し、遊ぼう言うただけ。俺が悪いところなんて見当たらない。そこら辺の女の子に聞いてみればみんなそういうというのに。自分のものは名前を書いておきなさいって、小さい頃から言われてきたのはみんな同じだというのに。それが出来てない自業自得だと、なぜ誰も気付かないのだろう。

雫もそんな女達の一人。少し、もしくはだいぶ、特殊ではあるけど。更に跡部は雫の彼氏なんかやないから、最低だと言われる筋合いも実のところ全くない。隠す必要さえも疑えるが、そこは人付き合いだと俺は思っている。跡部に気付かれないように雫に微笑むと雫は顔を真っ赤にして笑った。
跡部と一つ二つ言葉を交わして練習に入る。最後に跡部が雫に微笑んだのが分かった。それを見てそこはかとなく愉快な気分になる俺は間違えなく最低だろうけれど。

俺は全て知っている、けど、お前は何も知らないだろう。


ラリー中さえも跡部が気にする女は今は少し眠たそうに俺を見つめている。常に世界は上手く回らない、なんて、よう言ったもんや。


「(俺が言えたことや、ないんけど)」



キング、が笑う

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