透明で彩る | ナノ

 
 
「先輩って彼氏いたことあるんですか?」


毎回唐突だなぁなんて都先輩は困り顔で笑う。なんだかんだ放課後はテニスコートを眺めながら並んでいることが多かった。たまに課題を教えてもらったりして。でも、英語だけはわからなくても絶対教えてもらわない。赤也君もこうやって教えてもらってるんだって思うと複雑になって泣きそうになってしまう。赤也君のこととなると妙に泣き虫になってしまうこと、最近気が付いた。泣いてばっかり。鬱陶しくて、重たい。
どちらにしたって、先輩とちょっと多く話してるとモヤモヤぐるぐる汚くなる心は認めてる。けれど、やっぱり先輩のことは嫌いになれないし、今更距離の取り方もわからない。まるで距離を取りたいみたいなことを思ってしまったけれど、先輩といないと本当に赤也君の視界に入れなくなること、実は知ってた。ずるくて性格の悪い考えしか巡らないから嫌になっちゃう。

「いたよ、ちょっぴりね」
「ちょっぴり?」
「うん、本当に短期間」
「へぇ」
「ていうか2週間」
「えー…」
「ねぇ、笑えるよねえ」
「別れたんですか?」
「んー、離れちゃった」
「ふうん…」

2週間って。そう思ったけど、離れちゃったという言い回しになんとなく合点がいった。でもわかんない。さっすが、3年生の先輩は大人なことを言う。先輩よりわずかに子供なあたしにはなんだかむつかしくって。でも先輩は、わからない顔をしてるあたしに構わず独り言みたいにポツリ、すごく格好良い人だったよと、綺麗に笑うからすっごくすっごく大人っぽく見えた。欲張りな人。欲張りでも許されてしまう人。ずるいなぁ。

「離れたから終わったんですか?」
「その時1年生で、携帯持ってなかったし、付き合い方なんてお互い分かってなかったし」

今はもうわかっているみたいな言い方にドキリとした。だめ、やだ、わあもう、墓穴掘っちゃった。

「今もその人、都先輩のこと好きかもしれないですね」

そんで元鞘戻ってそれでハッピーエンドとかにでもなればいいのに。相変わらず自分中心な捻くれた思考に呆れかえる。こんなだからうまくいかないんだ。意地悪な質問をしたのにも関らず、先輩はいつもと変わらずに微笑んだ。

「綺麗で格好良い、優しい人だったからなぁ。きっともうモテモテで彼女いっぱいいるよー」

テニスボールが教材室の近くの壁まで飛んできて当たった音がした。ホームランなんて笑う声と、真田先輩が誰だと咎める声も少し遅れて飛んでくる。
彼女がいっぱいなんて可笑しな表現がすこしだけ笑えてしまって。あたしが吹き出すと、きっと訳も分かっていない先輩もおかしそうに笑っていた。




むかしのはなし

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