透明で彩る | ナノ

 
 
「ー…っ、………」


少しずつ、息を整える。格好悪い、気持ち悪い、意味が分からない。杏はなんと思っただろう。それこそ、なにこいつとか、思われたかもしれない。なんで泣くことしか出来ないんだ。悔しい、愛しい、切ない。俺は、泣きたかったわけじゃない。

「…ありがとう」
「……?」

息が震えて言葉には出来なかったけど、理解が出来なかった事くらいは伝わっただろう。杏のありがとうの、意味が分からない。無理に鎮める嗚咽、感情。じりじり熱る頬はこんな弱い自分を恥じている。こんな弱い俺に、なんでこいつはありがとうと口にするのだろう。財前君は、本当に。そう続ける杏。名前を呼ばれただけで、すこし緊張する心臓。

「うちのこと好きなんだなー…って、思って」
「……自分、」

杏は俺の言いたいことがわかったみたいで、分が悪そうに苦く声を立てて笑う。

「あは、うち恥ずかしいね…ち、違ってたらごめんね。でもほら、嬉しいの」

ふわりと笑ってくれたこいつも、白石先輩みたいにすごく優しい奴だ。
前から知っていたし、そんな所が好きだったんだけど、どこから湧き出てるのかと問いたくなるくらい優しさをこんな俺にもくれるのかと思ったら。違くないし、俺も嬉しい。俺は白石先輩やないのに、それでも嬉しいなんて笑って言ってくれて、白石先輩にはなれない俺でもこうやって杏のことを好きになることを許してくれる。

見惚れて、俯いて、また顔を上げて、杏を見た。

俺ってホンマにこいつのこと、好きなんやなあ。


「………こっちこそ、おおきに」
「ふふ、どういたしまして」


気付いたそれは、ぬるい夕暮れのほんの小さな恋心。



優しくてぬるい青春だ
 

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