透明で彩る | ナノ

 
 
ああああ、もう、むしゃくしゃしてしゃーない。

「なんやの財前、いつもの2割増しで怖いでー?」
「…せめて1割っすわ」

つか関係無いやないすか。
そう呟けば謙也さんは分かるでなんてきな臭い笑顔を見せた。ああ、清々しい程に悪い顔だ。睨みつけるけど、そもそも俺から無意味に睨まれることに慣れている謙也さんにはそろそろ効果がない。謙也さんの口を塞ぐか自分の耳を塞ぐか迷ったけれど、結局咄嗟に腕が動かなくてどちらも出来なかった。キィンと耳鳴り、どこだったかの細胞が死んだ音が重なる。

「自分、白石に嫉妬しとるんやろ?」

普段散々ヘタレだの異名がダサいだのそれを気に入っている謙也さんは更にウザいだのとバカにしている人ではあるが、こういう、たまに少々勘の良い謙也さんは苦手だ。苛つきを隠し切れてない自分もどうかとは思うが、こう言う時にふらりとへらっと現われて的を射とめている様な、分かっているみたいな発言をして、そんで直ぐにさっさと帰っていく謙也さんは実にどうしようもない位に最低だと、そう思うのだ。

今だって、当たっている。
そうだ。俺は今杏のことで白石さんにヤキモチを焼いている。そんな、ヤキモチなんか焼く程の間柄ではない自分がそんなに妬く権利などどこを探したってないこと位、よくよく理解している。けれど、羨ましいと言うか、なんというか。

「そうは言うてもしゃーないやないすか。杏のやつ、他の奴なんか目に入らん位白石さんばっかしなんすから…」
「おーおー、青春やなあ。でも白石の奴、他におったはずやで、想い人」

想い人って。何と言う言い回しだ。
少し小春先輩みたいで気色悪いなんて思いながら、謙也さんを振り返る自分に嫌気が差した。

「…ほんまですか?」
「随分前に聞いた話やから定かやないけどな、白石がそう簡単に心変わりしたりせんやろ」
「そう、すか」
「別に、良い思うけどなあ」


謙也さんが意味深に呟いた。謙也さんが格好付けたって似合わないけど。

「…意味分からんすね」
「別に、人の失恋願ごうても、罰は当たらんのとちゃうかってな」
「それじゃ最低じゃないですか」
「はは、まぁボチボチがんばれや」

愉快そうに笑って去って行った謙也さんはいつもと違って意地悪な顔をしていたけれど、何処か少し、いつもよりも大人っぽく見えた。

不愉快だけど、軽くなった心に思わず笑ってしまった。


伝わらない想いばかりが溢れて


 110910 ページ追加 結構大切なのに書くのを忘れてたページです(笑)ごめんなさい。結局謙也さんには愚痴っちゃうような財前君かわいい。

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