「相山、」
「赤也君。…あ、相山じゃなくてさ、有って、呼んでよ。都先輩は名前でしょ?」
自分でもいきなりだとは思ったけれど、精一杯明るく、軽く、そう言ったつもりだった。
でも、少しの、きたないきたない嫉妬が滲んだのが自分でも分かった。
都先輩を引き合いに出すこと自体、色々と間違っている事くらい、知っているのに。
赤也君の曇る表情が私を睨んだ。好きな人に嫌われていくことはこんなにも悲しいことだから、私はもっと賢く恋をするべきなのに。多少抑えたのか、ボソリと呟いた声は確かに呟いた、と言えるほどの小さな声だったのに、これ見よがしにあたしの耳へと滑り込んだ。
「…都先輩とお前じゃ違げーだろ」
「……そ、だね」
あ、傷付いちゃったよ、赤也君。
でもあたしも赤也君のこときっとすごく傷付けちゃったよね、ごめんね。
全くだ。笑えるくらいに正しい。赤也君にとって先輩とあたしじゃどのくらい違うのかな。赤也君が自分が傷付くと分かっていても目で追いかけてしまう先輩と、彼の視界に入ることすらできないあたし。少なくともそれくらい大きなおおきな差があって、悲しくて、遠くて、すごくすごく。
笑えるくらいに正しいはずなのに、おかしいね。
笑えないよ。なんだか涙が出ちゃいそうだよ、赤也君。
だって赤也君は都先輩が好きで好きで、それはあたしが赤也君のことを好きなように、それくらいにあたしは赤也君が好きで。
「…泣くなよな…」
面倒臭そうに眉をひそめた赤也君に、とうとうどうしたらいいのか分からなくなった。
あれ、あたし、昨日も泣いたのに。体から水分がなくなっちゃうよ。乾涸びちゃうかもしれないよ、どうしよう、ねえ、赤也君。
きらい?
鬱陶しい?
うざったい?
ごめんね、って、嫌いになってほしくなんかないんだ、って。
好きになってくれないことがとっても悲しくて、でも嫌われるなんてもっともっとすっごく嫌だよって。
言わなきゃ。ううん、でも、そんなこと、言えない。
「さや……有って、呼んでやるから、泣きやめよ」
さやま。確かにそう言いかけて、戸惑って、消えて、困った様な、笑顔になってない、笑み。
嬉しくないけど、悲しくない。悲しいけれど、嬉しい。
どちらかと言えば、後者だ。
「…っ…ごめん、泣きたかったんじゃ、ないんだ、よ」
やっとのことで涙を拭って苦く笑う。
変だよね、気にしないでね。そう加えて、誤魔化しきれてないことはわかっていたけれど、できるだけぼかしてしまいたかった。
別に、気にしねえから。こっちこそごめん。小さくそういって、赤也君はどんな気持だったんだろう。そんな事、わからないけれど。
「…うん、ありがとう。えっと、…用事だったんだよね、何、かな」
「…や、なんでもねーわ。じゃあな」
そっか。
都先輩は何処かって、聞きたかったんだね。
こんなに痛い、傷口を撫でて涙でひやりと濡らすの