透明で彩る | ナノ

 
 
「お前、氷帝の奴だろ?なんで来てんだよぃ?」


侑士君の試合が始まる寸前で、知らない人に声をかけられた。
なんでって言われても。この誰かは私以外にも氷帝の人なんてたくさん来ている中で何故私になんでを問いかけるんだろう。なんで。それに答えるとするならば私でも私じゃなくても答えは殆ど一つだ。
けれど立海のジャージの黄色がよく似合っているその人は、なぜか私に声を掛けたのだ。

「なんでって…、応援に」
「誰の?」
「誰の…?」

すかさず。まるでそちらが本当に聞きたかったみたいだと思った。

誰の応援。それはなんというか、私は氷帝生だから、氷帝の人の名前を言うのが当たり前なのだろうか。もちろん、氷帝を応援してはいるけれど。でも、誰かと問われれば。

侑士君をチラリ見て、あいかわらず綺麗な顔してるななんて考えた。整っていて涼しげで、何もかも見透かした様な瞳は戸惑うこともなく私を見つめる、けれど何も分かってない。そんな人。私の愛しく思う人。私が侑士くんの一番目。そこには二番目だって十番目だって存在するけれど、忍足くんが私の何番目かとは訊ねられたことはない。彼にはもう答えが分かっているのかもしれない。侑士君と真逆な赤い髪が微かな風に揺れた。

「……そちらの、切原君を」


「え、ああ、そうなんだ」

ほんの少し、微妙な間があった。意外だと言わんばかりの表情に、彼の素直な性格がうかがえた。

「…氷帝の人じゃないから、驚いているんでしょう」
「まぁ…。赤也か、そっか。連れてきてやろーか?」

彼は私に誰かを重ねるような儚い恋をしているのかもしれないと、中途半端な恋愛小説みたいなことを思案した。そんなわけない。可能性が低過ぎた。心遣いは嬉しいけれど、なんだかちょっぴり切なそうな顔をした彼にありがとうを言える勇気もなかった。

「ありがとうございます。でもいいです。彼氏に嫉妬、されちゃうので」


心底可笑しそうな口ぶりで、控えめに微笑んだ彼女に寒気がした。それはまるで日陰で咲く儚い小さな花のような可愛らしさなのに、どこか背徳的なものを感じさせて。今ので完璧に惹かれたのを感じた。あーあ、俺はどうやら不毛な恋愛とやらなんやらに片足どころか頭から飛び込んだみたいだ。



可哀相な僕の手をとって

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