「……丸井君…?」
「先輩?どうしたんですか?」
試合そっちのけでベンチの方を食い入るように見つめている私を有ちゃんが気にして声を掛けてくれている。でも、そちらに神経を移すことなど出来なかった。有ちゃんの声は周りの歓声の所為か、それとも私のショックに近い感情の所為か、まるでフィルタを通したように、遠く籠って聞こえた。
だって、ねぇだって。
丸井君が話し掛けているのは、誰?
顔さえ知らない。
丸井君は何故、あの子に話しかけているのだろう。ファンの子?差し入れ?いやいや、そんな雰囲気では、なさそうだ。
本当は知っている。私なんかが丸井君の話しかける一々の女の子を気に掛けていいわけがない。そんな権利、彼女ですらない私が。細々と片想いをしているだけの私が。手にできるわけ、ないんだから。それでも、目は丸井君を追掛ける。
「有ちゃん、あの子、知ってる?」
「え?…あ、いえ、見たことないですね…」
じゃあ、氷帝の子?それとも、それ以外の学校の、彼女?あ、丸井君が席に戻った。
「まさか、ね」
彼女っぽい雰囲気では、なさそうだったし。有り得るとしたらそれは丸井君からあの子への片想い。ああ、それも、嫌だ。「あ」雅ちゃんの素っ頓狂な声がポンと頭の中に響いた。小さな風船が割れたみたいな小さな衝撃だった。
「あの人、氷帝の人の応援っぽいですよ?」
「へ?」
「だって、氷帝コールに合わせて口が動いてる」
「え?あ、本当」
それは微かで微かで、微か過ぎて。
口の動きも本当に氷帝コールであるのか分かりにくいほど小さなもので、周りの大きな氷帝コールが聞こえている今この環境でやっと、多分言っている、と思える程度だった。
「なんて言う人だろう…」
「……きっと、丸井先輩のお友達でさえないと思いますよ」
私もそうは思うけどね、そう言って笑ってみれば有ちゃんは気持ちは痛い位に解ります、と笑った。恋愛って辛いねえ。呟く私に返事をくれた有ちゃんも、そうだよね。
今私が丸井君と話していた氷帝の誰かを気にかけるように、彼女はいつだって赤也君が話しかける私のことを胸を痛めながら見てたんだ。誰かを傷付けるつもりがないのはみんな同じだから、だからこそ傷付く。ループ、リピート、エンドレス。
つらいつらいのとんでいけ