透明で彩る | ナノ

 
 
「樹は、好きな人とかうらんぬ?」

椅子に座るべき向きとは逆方向に座る裕次郎。
今は授業と授業の合間の休憩時間だった。次は社会。移動教室ではないので特に大きな準備は何も要らない。そろそろ屋上に戻ろうかと思っていた時に、裕次郎は淡々とした表情で訊いてきた。

その質問には正直何とも言えなかった。
意味が分からない。夏はまだ本気を出していないというのに、彼はもう暑さにやられたのだろうか。確かに沖縄は、暑い。

「は?何で?」
「別に、なんとなくやさ」

別に、なんとなく。そんな言い回しで回避する時の裕次郎は大体の確率で何かある。何の為だかはやっぱりさっぱり、わからないけど。

「うらんよ。裕次郎は?」
「…俺?」
「そう」

キョトンと訊き返してくる裕次郎。こういう場合訊き返されるのが普通だと思うのに。ふさふさした焦げ茶色の髪が太陽の光の光に当たり、金色にも見える。眩しい太陽に目を細めた彼は、なんだか何か愛おしいものを見るかのように空を見やって、また此方を向いた。

「俺はー…いる、かな」

微かに笑む裕次郎。あんまりにも意外な答えだったものだから少なからず呆気に取られてしまった。
余裕ぶってニヤリと笑って、へえと返す。いいことを聞いてしまった小学生みたいに。言ってからではもう取り返しは付かないのに、真っ赤になった裕次郎。昔から変わらずからかい甲斐がある。小学校の頃も、からかうとこんな顔してたっけ。

「誰?」
「はっ?!な、教えるかよ!」

更に顔を赤くしてあからさまに焦る裕次郎が面白かった。

「そ、残念」



知らないけれど、そういうの好きよ


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うらん:いない

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