透明で彩る | ナノ

 
 
「んーっ 絶頂!」

パアン、と小気味いい音が響くたびに、耳を劈く勢いで響く黄色い声援、と言うよりは嬉しい悲鳴が響く。そんな群れの中に混ざっているうちもうちだとか思うけど。周りのファンクラブメンバーの皆さんのような大きな声で応援できないうちは、せめてもの気持ちで毎日欠かさずここに訪れる。そして、渡せる時は何かしら作って持ってくる。特別料理が上手いとか、特別可愛いとかそんなじゃないけど、それでもいつも、毎日訪れて、その姿に見とれて。その成果か、いつからか白石先輩に顔を覚えてもらっていた。

「ほら杏!今や!渡してき!」
「えっでも、他の人も美味しそうなの作って来てはるし…、今日は良いや」
「弱気やなぁ」
「杏ちゃんやん、今日も白石に?」
「わ、忍足さん!」

うちの肩をバシバシ叩く友人とうちに気が付いた忍足先輩が声を掛けてくれた。忍足先輩のことが好きだという友人が嬉しそうに笑う。彼女がうちに付き合って応援してくれるのはこのことがあるからだと思う。それでも助かっているのだから、感謝しなくてはならない。うちはそんな彼女を応援したい。いつか私も忍足先輩のことを好きだったとか、そんな昔過ぎることは話したことがあったと思う。彼女はそれを気にした様子ではなかった。昔やろ、そう言って笑ってくれる彼女はとってもいい子だから、忍足先輩もそれに気付いてくれるといいなぁと思う。そんな忍足先輩は何故かうちの恋愛沙汰によく首を突っ込んで笑う。協力的すぎて、たまに驚く。友人はその分喋れるから丁度良いなんて言うけれど、うちには不思議でしかないから、謎やなぁとかなんとか。

「そうなんですよ!ほら、杏、折角忍足さんが声掛けてくれたんやから、白石さん呼んで貰えばええやないの」
「せやでせやで、使ってくれてええんやから!」

なんで先輩と後輩と言う関係なのに友人は忍足先輩と仲が良いのだろう。友人のような人懐こさとか明るさとか、そんなのを持ってればうちも白石先輩とこんな風になれたのかなあなんて。友人の性格の良さが羨ましいとか、そう言うのってあまりよくないとは思うけれど、彼女はその昔このテニス部のマネージャーに誘われたことがあるくらい、器量が良くてあかるくて、恋をしていて、かわいらしい。彼女がそれを断った理由はなんだっけ。曖昧に笑って、申し訳無く眉尻を落とす。今日はなんだか、恥ずかしい。それはたぶん白石先輩が丁度いま、格好良過ぎて、また恋をしたから。

「え、でもそんな…悪いですし…」
「謙也先輩に悪いとか思わんでええっすわ」

ドリンク片手にひょこっと現われた財前君がサラリとそう言った。毎度ながら先輩にこれだけ容赦なく言っちゃうなんて仲良しなんだなあ。いつも思うことを今日もまた思っていたら、財前君を小突いた忍足先輩が大きな声で白石先輩を呼んだ。そこで我に返ったうちの足が今にも回れ右をしてしまいそうで、そんなこと予想済みの友人に肩をがっしり掴まれる。こういう時だけ、容赦なく握力が強い。自分の記録と私の恥じるべき記録を見て、か弱くありたいから羨ましいわぁなんて言っていたのはどこのどなただったか。

「えっ、えっ、忍足先輩!」
「良いやんいいやん、アタック有るのみ、やで」

にやりと笑った忍足先輩に、少しだけ感謝したなんて秘密。



うぶで可愛いよ

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