侑士君がこちらを見て、微笑んだ。私も笑顔を返した。跡部くんも優しく笑い掛けてきた。私も笑顔を返した。
何故、侑士君が私との関係を隠し続けるか。十分に理解はしている。一つは、私以外にも、私の様な存在が腐るほどいるから。そして二つ目は、跡部君が私を好きだから、らしい。跡部くんが私を嫌っていないのは知っていた。でも、私が跡部君に好かれているというのは些か違和感のある話だった。理由なんてないけれど、私って派手な感じじゃないし、跡部君に特別しょっちゅう笑い掛けてる訳でもない。実は跡部君は庶民派なのかな。それが跡部くんが私を好きだという話を聞いたとき一番に思ったことだった。
ギャラリーに溢れかえる綺麗な女の子達。あの中にもきっと侑士君の女はたくさんたくさん、いるのだろう。慣れてしまった。慣れてしまったというのは少し語弊があって、そういう悲しみを感じる意味がないだけなんだけど。
侑士君が他の女の子と一緒に歩いていても気にならない。いや、その時感じるのは正に優越感。他の女の子達と居る時に笑っている侑士君なんて見たことがない。全てのその現場を見たことがあるわけではないが、少なくとも私が見てきたそれでは、確実に。私には笑いかけてくれる。ニセの笑顔には到底見えないそれ。そんな笑顔を見ることができる私と笑ってもらえない女の子達で、勝ったと言ったならば、それはちょっと意味が違う気がするけれど。ほんの少し、全部忘れていられるような。
私が愛していないと言えばそれはウソになる。愛なんて感じないと言えばきっとそれはウソになる。私が侑士君の女で、侑士君は私の男で。更にこの関係が有る時点で私はそこにないはずの恋愛感情に浸っている。恋は盲目とはよく言ったものだ、なんて程に、侑士君は私を愛していてくれる。何時捨てられても可笑しくないような、脆過ぎる、曖昧な関係。この距離を遠いとは言わない。
これが最善なんてわけはない。けれどもそう、今が幸せならそれで良い。失恋するほどの勇気はまだないから、気休めでもいい。それを侑士君も理解している。それでも私を見ていてくれる。バカみたいだと言ってしまえばそれでおしまい。無数の女の子達と遊んでいる侑士くんがよく言われていることだけれど、でも本当に最低なのは、私だ。
恋愛なんてそんなロマンチックなものとは到底かけ離れているそれに溺れきってしまっている私に、優しい朝なんてきっと来ない。
私の夢は人魚姫