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恋って、なんでこんなにも難しいのか。苦しくて辛くて、でも楽しくて嬉しくて。なのにみんなが幸せになれるわけじゃない、不公平な感情。みんなが幸せになればいい、なんて思わない。だってわたしの好きな人はとても人気だから。みんなが幸せになったら、わたしだけの幸村くんにならないじゃない?
 
学校の花壇の煉瓦に腰掛け、今にも泣き出しそうに顔を歪めている幸村くんの隣に寄り添うように座る。幸村くんは震える声で、またなんだと呟いた。
 
「彼女が、」
「うん」
「俺と別れろって嫌がらせされて、もう耐えられないから別れてって言われたんだ」
 
幸村くんには可愛い彼女がいた。ふわふわと笑顔の愛らしい女の子。だけど幸村くんは、今日彼女と別れたらしい。小さく震える彼の背中を落ち着かせるように叩く。トン、トン、トンと刻まれる一定のリズム。幸村くんは強く自分の手を握り締めて言う。
 
「また俺のせいで彼女が傷ついた。これでもう五人目だ」
 
幸村くんがこうして傷つくのも五回目だし、わたしがこうやって幸村くんを慰めるのも五回目。幸村くんが別れる度、わたしはこうやって弱い幸村くんを見てきた。わたしだけが、見てきた。
 
「幸村くんの所為じゃないよ」
「違う、俺の所為だ」
「違わない」
 
血、止まっちゃうよ。強く握りすぎて変色していた幸村くんの拳を優しく解けば、幸村くんは悲しそうな瞳で自嘲気味に笑った。
 
「苗字さんが彼女だったら、こんな辛い思いしなかったのかな」
「わたしは嫌がらせなんかには負けないよ」
「苗字さんを好きになればよかった」
 
わたしの手を握って笑う幸村くんは自棄になっている。たとえ冗談でも幸村くんは軽々しくこういう事を言わない人だ。自棄じゃなきゃ、こんな事も言わない。幸村くんは、相当参っているのだろう。
 
「なら、わたしにしたらいいよ」
 
幸村くんの手を握り返してそう言えば、幸村くんが弾かれたようにわたしの顔を見た。
 
「苗字、さん?」
「わたしは幸村くんを絶対傷つけない、裏切らない」
「でも、俺は自分の為に苗字さんを利用する事になるんだよ」
 
幸村くんの大きな瞳に、薄く水の膜が張る。大丈夫、もう大丈夫だよ。だから泣かないで幸村くん。
 
「遠慮なく利用しちゃって構わないんだよ」
 
そう言って、自分が出来る最大級の笑顔を見せた。幸村くんは綺麗な顔をくしゃくしゃに歪めて、壊れ物に触れるみたいにわたしを抱きしめた。
 
「苗字さん、すきだ」
「うん。わたしもすき」
「いっぱい傷つけたらごめん」
「傷つけていいよ、大丈夫」
 
縋るようにわたしを抱き寄せる幸村くんの手は、今までどんな風にあの子たちを抱きしめてきたのかな。いつもの気丈な幸村くんが優しく抱きしめてたのかな。きっとこんな風に、縋られた事はないんだろうなあ。ああ、今とても勝ち誇った気分だ。ざまあみろ。これで幸村くんはわたしだけのものだ。今までたっぷり手間と時間を掛けて漸く手に入れたんだ、もう二度と手放すもんか。踏み台にしちゃった子たちには悪い気もするけど、わたしより先に幸村くんの隣に座ってたんだもん、その位の罰を与えてもいいよね?
 
「精市くん、だあいすき」
 
これからはわたしだけを愛してね。
 
 
愛されたい子は手段を択ばない
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