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くっと横に引き結ばれた彼の薄い唇を開き「せんぱい、お誕生日おめでとうございます」自らのつんとした鼻を指で軽く触れてみせて、心なしか居心地わるそうに地面へと視線を泳がせる。ふよふよと漂う目線が愛しかった。そっけない素振りをしていながらも彼から紡がれた言葉がうれしくて「うん、ありがとう」へらりと意識せずとも頬が緩む。ああ、うれしいうれしいうれしい、お祝いしてもらうことを他のひとにも増してうれしいとおもったのはいつぶりだろう。
 
「べつに、せんぱいがおれの時もこう言ってくれたから」
「うん、それでもいいよ。うれしいもん」
 
彼はバツがわるそうに舌唇をやわやわと噛む「そう、ですか」きりりと涼し気な目元から送られる目線がわたしに移る。なにかを飲み込むように彼が困ったように薄くはにかんで「せんぱいは」と呟くから「うん?」と首を傾げると、一拍あけて「このまま高等部に進学しますか」とまばたきをしてみせた。
 
「うん」
「‥おれも、行きますから待っててください」
「うん」
「‥とは、言いません」
「‥うん」
「‥待ってくれなくてもいいから、おれはせんぱいを追いかけます」
 
きっと、うん、と紡いだわたしはたぶんさもうれしそうに頬を緩ませていただろう。たとえ彼が追いかけてきてくれなくたってわたしはいつまでも日吉若というおとこの気配に静かに胸を高鳴らさせていく。たったこれだけで、噎せかえるような幸せ感で息苦しささえ覚えた。
 
「日吉くん」
「なんですか」
「いま自分がどんな顔してるかわかる?」
「‥どんな顔してますか」
「照れ臭そうな顔」
「ほんとうですか」
「ごめん、うそ」
 
すると彼は不満そうに唇を引き曲げて「つまらないです、つまらない、あなたのわるいジョークはつまらない」息をつくようにまぶたを片手で覆うのだって、言わば彼の癖みたいなものである。摘ままれた猫のように首を竦めて「ごめんね、日吉くんのことがかわいいからなの」息を吐いて小さく笑うと「なんなんですか、うれしくないです」と眉を寄せる。きっといつだってしあわせを感じるのはわたしばかりだ、恐らくふとした時にすきだなあとおもうのもわたしばかりだろう。それでもかなしくなんて更々ない、今をおもって生きるわたしにはこれが最善のしあわせ。
 
 
「柔らかな口角」
 
title thank you ペチカの脳味噌
character 日吉若
りんりん17歳おめでとです〜〜 これからも進化する素敵なおんなのこでいてください(`・ω・´) これからも仲良くしてね!だいすき! くら 
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