頂き物 | ナノ



次元の魔女さんのところで会ったファイさんは魔術師で、セレス国というところから来たらしい。使えば使うほど強くなる魔力を封じる刺青を対価に渡してしまったから魔力は使わないという感じのことをやんわりいつかに聞いて、わたしには魔力なんてないし魔法も使えないからすごいなあっておもった。セレス国ってどんなところなのかな、きっとわたしがまだ見ぬ幻想的で素敵なところなのだろう。いつか行ってみたいとぽつり呟いてみたら「ううん、雪深いところだからやめた方がいいよう」って「凍えちゃうしなんにもないところだからあ」って、自分の国をなにもないだなんて言いぐさ悲しいよ。それだけわたしを出身国から遠ざけたいのかな、わたしはファイさんの隣に居続けることを許されたわけではないのだとつくづく感じてひたすら見えないかぎづめで内臓をかきむしられる。わたし的には微妙に付き合っているけれど別に彼にはそんな気持ちがないんだろうなあ、どこかではずるいひとだとおもうのにいつもあのあまい笑顔にほだされる。桜花国で花火が上がったのをわたしは桜花国で知り合ったおんなのこと見た、ほんとうはファイさんの隣で見たかったなあ。ファイさんはサクラさん達と猫の目のところらへんで見ていて、もっといい場所を思い出したと笑った彼女に手を引かれてちょっと移動している時に視界に入ったから「ファイさん」と小さく呟いただけできょろきょろして首を傾げていたからちょっとだけうれしくなったし、高い身長と不釣り合いな気がしてなんだかかわいかった。その時には会話はすることはなかったけれど、後からさっききょろきょろしてたでしょう的なことを言うとへにゃりと「声かけてくれたらよかったのにい」と笑みを浮かべられて、わたしはファイさんはやっぱりずるいひとだとおもうのだ。だけれどこんなファイさんにこそ胸が高鳴って仕方ない、頭がくらくらして息苦しくなる。一緒に見ていたらもっともっと花火よりもファイさんの方を見ていたかもしれないことを自覚すると、ちょっとだけ心臓がむずがゆくてなんだか照れくさくなってしまったよ。例えひとりよがりな感情でもわたしはへどが出るほど優しくてずるい彼が見れたから、いいのだ。付き合っていないなんてわかりきっているけれどもしかしたらと期待させたり、あのひとの心がわかりにくくても気持ちが返って来なくても冷たくされるよりずっといい。
 
「ファイさん」
「なあに」
「あのね、わたし…クレープ、食べたいです。蜂蜜たっぷりのあまったるいやつ」
 
ほんとうに言いたかったことは言葉にならなくて、そんなことを連ねれば「うんうん、いいよお」とにっこりにへにへうれしそうにふにゃふにゃ笑うからわたしもどうでもいい気分になって笑みを浮かべる。ファイさんと一緒に花火を見たかった、それより一緒にいたかった。わたしが彼の住んでいたセレス国にいつか行ってみたいと言った時にもそうやっていつもみたいに柔らかい笑顔でいいよおって頷いてほししかった、いつか一緒に行けるといいねえって建前だと言ってほしかったなんてわがままなのだろうか。でも日だまりみたいにほの暖かく笑っている顔の方が見たいから、わたし達にはこのぐらいの距離の方が向いているのかもしれないなんて思い込むわたしはあまいのかな。
 
 
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こっちにはあるけどそっちにはないよ/ファイ・D・フローライト
odai ペチカの脳味噌
foryou Rinrin
 
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