ブルーロマンス | ナノ


どうしたらいいのかって、必死に考え過ぎてて、銃声より小さな音に気が付けないでいた。

「どこの人間だい?」
「、ひ」

ひぃってよりは、雲雀さんって言いたかったんだと思う。結局口が動かなくなってしまった。
目の前の光景に確信を持つ。これはトリップか夢だ。漫画の世界の彼が目の前に無表情で。しかも見慣れた姿でない。10年後?いや10年後の姿ならわかると思うのだけど。
雲雀さんかぁ。そう思った。綱吉とか山本くんならまだなんとかなったろうになぁ。少なくとも死ぬ危険性はだいぶ減ったと思うのに。とりあえず拝めてうれしいとか、頭の隅っこはあまりにも楽観的だ。
頭に添えられた金属は漫画やアニメで見るよりも凶器らしい鈍い光を放っていた。いつ廊下に来てたんだろう。さっきまで誰もいなかった廊下で、人の足音になんて気が付かなかった。もしかしたら彼は足音なんて立てないのかもしれない。

「知らない顔だ」

そりゃそうでしょうね、なんて。だって私はマフィアじゃなければここの世界の人間でもないんだ。
帰ったら直ぐに着替えておけばよかった。そろそろ沈む太陽を見て水遣りを優先したから、制服のままだとパッと見マフィアに見えてしまうのだろうか。でもスーツじゃないことは一目瞭然なのだけど、それでも適当なTシャツ来てたならもう少し信じてもらえたかもしれない。あぁでも、雲雀さんはそんなこと気にしなさそうだ。
こうなったら説明するしかない。天下の雲雀さん相手に言い訳なんて、自分にそんな勇気があるかはわからないけれど、とりあえず今は死にたくない。

「わ、わたしは、ちがいます!」
「…」

振り絞る声に、彼はなんとなく耳を傾けてくれるみたいだ。
トリップしちゃったくらいだし、多少ラッキーが付いているのかもしれない。勢い付いて雲雀さんの目を見ると恐ろしいくらい綺麗な薄紫と目があった。その目は今にも私を殺してしまいそうで。トリップってもっと幸せなものだと思っていたなぁ、妄想って怖い。

「マフィアじゃ、ないんです」
「僕らがマフィアってわかってる時点で一般人じゃないよね」
「うわわわ」
「言い訳はもういいかな」

チャキ、小さな小さな金属音も耳元で響けば大きく頭に響く銃声に近かった。
もうだめだ、さらば私のトリップ生活わずか数分。ギュッと目を瞑って頭がヒビ割れるのを待つ。



「……?」

一向に衝撃が来ないことに違和感を持って目を薄らと開けた。
目の前の彼が私をじっと見据えてどうやって甚振ろうかと考えているのかと思いきや、彼は後方を振り返っている。

雲雀さんが見ていないことをよしとしてトンファーの宛がわれた頭をずらして雲雀さんの目線の先を追掛ける。この隙に逃げるというのも考えたけれどどこに逃げるとか、そういう宛先も何もない。そこには人影がふたつ。マフィアはみんな足音を立てずに歩くらしい。

「あれ、雲雀さん、そこにいるのって誰?」
「(おおお、)」

死ぬ前に3人もイケメンを見られたのだから、やっぱり今死んでしまっても大丈夫な気がする。今私は問題なく天国に行ける気がするよ。でもやっぱり地縛霊とかになって皆を眺めてからって言うのも捨てがたい。死亡前提というのは、すごく空しい話だけど。
近付いてきたのは紛れもなくボンゴレのボス、綱吉と、しっかり彼の右側を歩く獄寺君の姿だ。スーツを着こなす彼らも雲雀さんと同じく、見慣れた中学生の姿ではない。獄寺君を見ると10年後よりもだいぶ髪が短いのがわかるのだ。髪型だけで言えば中学生の彼に近い程だけど、でもやはり14歳の彼らではない。なんだか頭がごちゃごちゃしてしまうなぁ。

「ただの草食動物だよ。今から咬み殺すところだ」
「女じゃねーか。…制服?」
「雲雀さん、本当にこれ誰ですか」
「さぁ、細かいことまで僕が知ると思うのかい。邪魔しないでよ」

敵意剥き出しの雲雀さんを気にもしない様子で私を見下ろす綱吉は、やっぱり私が漫画やアニメで見ていた彼じゃなかった。
オレンジの瞳は私を見透かすように見ていた。迷いがなさそうというか、弱みなんてなさそうというか、この綱吉は私なんて簡単に捻り潰せちゃうのかもしれないと、彼の細い右腕を見ながら考えた。


私は何処に、来てしまったんだろう。
prev//next
  ← 
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -