ブルーロマンス | ナノ


言われるがままに呼んでもらったタクシーに乗りこんで、ホテルの前に着いてタクシーのドアが早く出てけと言わんばかりに開いたところでハッとした。タクシーの運転手さんがお金と引き換えに渡してくれたメモ用紙には部屋番号が書いてあった。受付のお姉さんに部屋番号を言えば鍵を渡してくれると言うことらしい。申し訳無い気持ちでいっぱいになりつつ高級ホテルの風格の自動扉の隙間に身体をねじ込むように入った。タクシーの窓からボーっと外を眺めていてわかったけれど、やはりここは日本らしい。この平和な日本でこっそりと銃戦があるだと。

なんとなく場違いだったのだろう。お客さんのみならず受付のお姉さんにまで疑問で潤った視線を頂いた。ロビーには高そうなお洋服で身を固めたダンディなおじ様ばっかりだ。

「は、803号室お願いします」

肩身の狭い思いで一番私に興味のなさそうな受付のお姉さんに上擦る声で話しかける。こんな見るからに高級そうなホテルなんて初めてだから緊張してしまう。
まさかこんな小娘がやってくるとは思っていなかったのだろう。両隣のお姉さんを合わせて3人もの美人なお姉さんが私を見て意外そうに目を丸めた。

「…あぁ、綱吉さまのご友人だと伺っております。此方が鍵です」

そういって爪の先まで綺麗な動作で鍵をくれたお姉さんはその後オートロックだから気を付けてとか夕飯の時間は何時にするか決められるから備え付けの電話で呼べばいいとか色色と教えてくれた。ここにいる間は飢えには困らずに済むみたいだ。ホテルの部屋のみならずもしもの時の殺人予告まで受け取ってしまったとはいえ、こんなよくしてもらって良いのだろうか。常識的な罪悪感に苛まれてみたりしても、今の私には財産という財産が何もない。それに、たぶん私なんかがなにかお返ししようとなんかしても迷惑にしかならないだろう。そんな世界なのだろうなと、淡淡とそう予想した。というかこれが本当に夢じゃなかったら、現実だったらどうしたらいいのかな。正直に言うと、これがわーいなんて喜べる状況であるとは思えない。
足早に廊下を進んでその部屋が803号室だと確かめ、ドアを開けた。大きいし至れり尽くせり感は漂っているものの、意外と普通に過ごせそうなその部屋に少し安心した。二つあるソファのうちの一つに腰をおろす。考えなくちゃならないことはいっぱいなのに、安心したのか、急に力が抜けていくのがわかった。



ふと何かを感じて目が覚めた時、視界に入る品のいい壁紙の天井にやっぱり夢じゃないのかと思った。もっと言うなら軽く落胆した。嬉しいと、ポジティブに考えたいけれど、まだ半日と経っていない先程の出来事を良い思い出として収められる人なんてそうそういないはずだ。あああ、あ、あ。そういえば私は何を感じて目を覚ましたんだっけ。自然に目が覚めたと言うよりはなにか、音とかモノとか、そういうのを感じた気がしたのだけど。やっと体制を立て直して周囲を確認する。起き上がってやっと、え、私ベッドで寝たんだっけと疑問に思うけれど、私のことだから寝ボケて移動していたのかもしれないなと半ば無理矢理解決する。

「よっ」
「…………え!うわ、わ、」

あはは。私の鈍くさい反応に声を上げて笑うその人がオートロックらしい部屋のベッド際に座っていればそりゃあ誰だって驚いてしまう。睫毛で縁取られた目をすっと細めて笑い皺を作り、焼けた肌と対照的な白い歯を覗かせて人懐こく笑うその人に思わず見惚れる。

「やまもと、さん、だあ…」
「おう!おはよ」
「お、はようございま、す!」

あっあと初めまして。そう付け加えるとまた微笑む山本。さん。おはようだとおお二次元系イケメンからおはよういただきましたあああ。こういうゲームとか着信音とかあるのに私ってばこれが無料だなんて。寝起きの脳味噌は多少テンションが高くて、変なことばかりしか考えられない。でも多分寝起きなこと以上に、爽やかな笑顔のせい。あ、お腹すいた気がするけれど、というか今何時なんだろう。時計を探すけどベッドからだと見えなくて、察してくれた山本さんが微笑んだ。

「もう12時だぜ」
「え?…えっ?!お昼のですか?!」
「ん、よく寝てたのな」
「すみません…、うわぁ寝たなぁ」
「色色あったんだろ?疲れたんだよ」
「いや、まぁ…うーん、」

色色。確かに色々とあったし、そういう意味では疲れたけれど。じゃあもうあれは昨日のことで、半日なんて余裕で過ぎちゃってたわけらしい。ドキドキドキ、心臓が緊張して伸縮を繰り返す。今更にあたふたし始める脳内のこの鈍さよ。

「ツナが、まだ寝てるだろうけど起きるまで寝かしてといてやってって言ってたぜ」
「そんなお気遣いなく…あれ、ってことは山本さんいつからいらしてたんですか」
「6時ぐらい?」
「6時…えっ」
「あはは、俺今日非番だから」

コロコロと笑い声をあげて、気にすんなよと言う山本さんはどこまでもどこまでも爽やかで正統派イケメンって感じがした。雲雀さんの殺気とか、獄寺君のおっかなさとか、綱吉さんの近寄りがたさとか、そんなのとはかけ離れた優しそうなそれに癒される。いい朝。というかマフィアって非番とかあるのか。変。予想とちがう。段々頭が冴えてきて。ああベッドまで運んでくれたんだ。重たくなかったかな、痩せなきゃだ。そこで唐突に、キュウ、切なげに鳴いた私の腹の虫に山本さんの笑い声が大きく響いた。
prev//next
  ← 
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -