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流魂街のうす暗い部分。そんなところだった。とはいっても更木とかそんな正気じゃいられないような土地でもない。子供の私達は何もないなりに楽しみ方を見つけて過ごしていた。
修兵と私は同じ地区に住み、毎日毎日顔を合わせて転げ回る同い年の友達。それだけの仲だった。それほどの仲だった。

そのときの私たちの中の流行りの楽しみは何もない土地をまるで何かあるかのように突き進む探検ごっこ。チビの修兵は私と背丈も変わらないのにいつも隊長を申し出ていた。だけどいつも隊長は交代制だった。今思えばなんてくだらないことだろう。そんなことさえしていなければ、思わずにはいられない。



それはちょっとした意地悪だったのか、純粋な気持ちだったのか、どうしても隊長をしたい気分だったのか。いずれかなんてわからない。けど、ただのゴッコ遊びであるにもかかわらず、その日は男だけで行く調査なんだから着いてくんなよ!なんて言われて。
おいてけぼりを食らった私は、拗ねて家の庭の柿を干す手伝いなんかをしていた。修兵が護廷の人に連れられて帰ってきたのはそんな夕刻のこと。虚に襲われそうなったところを助けられたのだそうだ。
想像もつかない恐怖心であるとか、そんなことより、奇跡的に無傷の修兵は一言ぽつりと、「俺も死神になる」とこぼした。

「やめてよ、チビ修兵なんてすぐ殺されちゃうに決まってんじゃん」

その時の私はピシャリそう言った。少し泣きそうだった。なんでかなんてよくわかんないけど、とにかく無事でよかったんだから、また命を捨てるようなことはしてほしくなかった。幼心にそれは修兵にも伝わったようで、ムス、って目を細めながら。小さく小さくごめんなんて言った。初めて聞くごめんだった。


その数年後。あっという間の今日。

何も聞かされていなかった。

「霊術院に受かったんだ」

何も聞かされていなかった。思わず声を荒らげる私に修兵は2回受けて、落ちてたんだよ。格好悪くて言えるわけねーだろ?なんてクシャりと笑うけど、そーじゃない。全然ちがう。
背丈はすっかり私を追い越して遠くなった気がしていたけれど、髪だって伸びて目つきも前以上にきつくなって、でも優しい笑顔が変わることはなくて。大人みたいにも見えるけど、まだ私の知ってる修兵なのに。本当に遠くに行くなんてそんなの嫌だ。だって私と修兵は、

だって、なんだろう。
浮かばない。友達だから、そんな理由でこんなに大きくなった修兵を止められるのだろうか。でも、でも。でも。わからなくなって、でも遠くに行ってほしくなくて、抑えきれないのは恐怖心とか、そんな部分。

「また置いていかないで。また危ないところに行くんでしょ」
「祝ってくれよな。喜ばしいことじゃねーのかな、普通」

お前が死神をキライなのはわかってるけどよ、と苦笑を漏らす修兵にハッとする。なにもわかってないんだ、こんなところはチビのまんま。

「ちがうよ、キライなのは修兵が傷つくことで、」
「なあ、違わないだろ。なまえ、俺は強くなって俺を守ってくれた人みたいに、」
「そんなのならなくて、いいから!!」
「なまえ、」

呆れたのかな。初めて見る表情に見えた。
大人みたいな顔して、バカみたい。霊術院って、死神になるところじゃないか。あの時のごめんはうそだったのかな、思い出して、心臓がぎゅうと、もう動いているのかもわからない心臓がぎゅうと。締め付けられる。
やだやだいかないで。しなないで。危ないところなんかいっちゃだめ。


「やだよ、一緒にいてよぉ・・・・・・」

泣き出す私の肩にてのひらを置く修兵の、その手の大きさにびっくりして。もう止められないんだってわかった気がした。悲しくて涙がぼたぼた落ちていくのが見えた。土を濡らして色を変えた。私と修兵の足元が歪んでゆらゆらして水面のように見えた。


「俺は護廷に入っておまえを守るぜ。本物の隊長になってやるよ、今度こそな」


それは2度目のごめんに聞こえた。このてのひらでもう十分守られていたはずなのに。格好付けて笑ったってちっとも格好良くなんかないけど、どうしても涙が止まらない。
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