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肩を揺すられる。すうっと意識が浮上する。ぷかぷかと浮いたり沈んだり、まぶたが重くて仕方ない。今日は一人で寝てないのだと思い出した。人の温もりっていうのはどうしてこんなに安眠につながるのだろう。それが彼氏であるブン太だからかも、しれない。夢もみないほどよく寝ていた気がする。だからといって、無理やり起こされては目覚めは良くない。

「なぁー…なまえー…?」

名前を呼ばれるだけで、その声に心臓が跳ねるような気持ちだった。少し体を捩ってその声から逃げた。大好きな声だ。低く優しい。でも、私はこれに少々弱い。その声が掠れているのはブン太も寝起きである証拠か。まだ朝は来ていないようで、部屋は最後に見た景色と同じ暗色だ。とりあえず眠たい。けれど、耳元の声がとてもなんて単位じゃあ言い表せないほど近いことを意識する。

「んー なぁ に、起きた?シャワー?」

眠たくてたまらなくても、案外口はきちんと動くものだと思った。まぶたを落としたままで近い頬に触れる。
けど、声は掠れて不自然だったようで、かすかに笑い声を漏らしたブン太がそっとキスを落とす。それにわたしも笑みを漏らす。

「日付ぇー な、ぴったり祝うとか言ったくせに、起きろってえ」

人に起きろという声音ではなくて、むにゃむにゃ喋るその人が可愛い。ああやってしまった。入念に選んで用意したプレゼントもこっそり彼が飲み物を取りに行っているわずかの間に本棚の影に隠してセッティングしてあったのに。わたしが作る料理も考えてあるし、むしろ、ダメ元ではあったけど彼が寝ている間に起きて部屋を飾り付けたいなんて意気込んで風船などもポーチに仕込んであったのに。人間欲求にはどうにも敵わないことがあるもので。彼は食欲、わたしは眠気。これは欲求と呼ぶのだろうか。眠たい頭でひたすら思考を脱線させていると耐えかねたブン太からの攻撃が始まった。私を抱え込むみたいに覆い被さり、なぁなぁ、なまえ、ゆってくんねーの、ねーってば、きいてる?俺の声。掠れた声はそのまま、少しトーンを下げて耳元で延々と続けてくる。この声に弱いってわかってるのに。

重たい瞼を開けて、目が合う前にちゅっとキスをしてやった。目が合ってから、もういちど。とりあえず、プレゼントはこれでお預け。だってねむたいでしょ、ブン太だって。

「お誕生日おめでとう、ブン太。一番好きだよ」
「ん さんきゅ。おやすみ」

シンプルな言葉だけで満足したらしく、一度わたしをぎゅうっと抱きしめてから、また隣にゴロンと寝転ぶ彼の世界一幸せなにやけ顔が、少し光が差し込み始めた部屋で見えていた。


ペールミッドナイト



遅刻だけどブン太すきだよやっぱりとても。おめでとう〜ございます〜
史上ないレベルのげろあまですね
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