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放課後のちょっとした時だった。部活に行くために教科書を乱雑に鞄に押し込んで、いらないプリントをすべて机の奥に押し込んで、未だざわめきの残る教室の中で、甘い匂いがしていた。
今日は11月11日。ポッキーの日とは有名すぎる、ぞろめの日。今日だけで何人の女子から何本のポッキーをもらったであろうか。チョコレートを纏ったもの、塩味のあるもの、期間限定のムースポッキー、とりあえず色々。
俺はといえばそんなどうだっていい日のこと忘れていたし、学校に来て一番最初に幸村くんにポッキーをもらった時には驚いた。意外だったし。
その後は続々と女子から手渡されるポッキー。ポッキー。一本ずついろんな味食わされて、正直口ん中きもちわりい。それなら受け取らなきゃいい話なんだけど、そんなんちょっとキャラじゃねえ。

部活行こ、部活。ラケバを担いで踵の潰れた内履きを引っ掛ける。その時クラスに入ってきた姿はよく見覚えのある人だった。


「丸井ー。はい、あ〜ん」

今日初めて見たなあと思っていたそいつは俺を見て笑顔で歩み寄ってきた。その左手には例外なくポッキーの箱。右手にはそれが一本。つぶつぶいちご、と書いてあるのが見えた。今日だけで幾本と口にした味だった。

「ん、……おまえさあ」

無遠慮に突っ込まれたポッキーは甘酸っぱい苺チョコレートの味しかしない。容易く折れたポッキー。器用に手を使わず食べきる。いいね食いっぷり、なんて言ってもう一本寄越そうとするそいつを静止する。このままだと何本でも口に突っ込んでくる気だろ、こいつ。


「え、イチゴ味きらいだった?」
「や、その」
「あ、もうポッキー飽きた?あー、そうだよね〜」
「それもちがくて…」


間違ってもいないけれど。
勝手にポンポン話を進めようとする目の前の女の頭に手を置いて「一回黙れ」に代えた。不思議そうに静かになったそいつは、正直かわいい。


「その、あーんとかフツーに恥ずかしいっつー……」


次の瞬間やっと顔を赤くしてごめん!なんて謝るそいつに、なんつうか、たったポッキー一本で振り回されて、なんつうか。置いていた掌でそいつの頭をぐしゃりと撫でて。ただの照れ隠しだけど。


「ま、ごちそうさんな」









ポッキーの日・・・。こういうネタ向いてないの知ってた。あーん恥ずかしいっていわせたかっただけでした
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