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黙ってふわりと漂う煙を眺めていた。綺麗に筋を描いて空へ空へと昇っていくから、これがこのまま雲になるのかもしれないなんて、思ってみたり。目の前の白色を意識しながら、深く息を吸う。そして当たり前のように咳き込んだ。視界を薄く濡らして咳をしていたら、私の気持ちを代弁するみたいに獄寺は顔を顰めた。「莫迦か」とでも言いたいんだろう。まるで現実みたいに明確なイメージを脳内で作り上げられるのは、よくそんな小言を言われているからだろうか。本当にねって心の中で返事をしながらも、どうにも苦しくて話をする余裕はなかった。見兼ねた彼はあっという間に短く擦り切れた煙草を私がいつか渡した携帯灰皿に押し付けて仕舞いこむ。それまで平気で煙草をポイ捨てしていた彼も、いつの間にかこれが当たり前になっていることに気が付いて少し嬉しく思った。呼吸を落ち着けて、彼を見る。近付いた距離に、まだ少し煙い空気を皮膚に感じた。
風に持ち上げられた獄寺の髪は、日の光に当たり繊細な色をした銀色をどこまでも変化させていた。ゆるまない眉間の皺がおかしくって、箇所を指の腹で撫でると更に怪訝そうな表情をされてしまった。それでも、指を離す頃には眉間の皺を薄くするのだ。バカなのは、君も同じじゃあないのかなあ。


「落ち着いたかよ」
「うん、ごめん」
「お前は受動喫煙で早死にだろうな」
「なにそれ」
「副流煙の吸いすぎで死ぬの早めてるっつってんだよ」


ああ、そういうことか。博識な獄寺は難しい言葉を使うから、わからなかった。フクリュウエン。私が先程わざと吸いこんだあれだ。主流煙よりも有害なんだっけ。とは言っても、煙草を吸っていても長生きする人なんてごまんといるわけだから大して危機感もない。強くて頭もいい獄寺はマフィアだ。いや、私も一応そうなんだけど。その腰のベルトにはいつでも拳銃があって、爆薬があって、ダイナマイトを隠し持っていて、物騒だ。そうもしょっちゅうそれらを使用することはないのだそうだけど、それでもいつでも戦闘になりかねない状況に身を置いているからには、彼も私も常に武器を所持していた。マフィアなんて楽しいものではない。早死になんて、私達に似つかわしくない言葉だったから笑えてきてしまいそう。だって、そんなの当たり前だ。



「どうせいつも周りが吸ってるし、今更だよ」
「だからってわざわざ吸い込むのはどうだよ」
「それに打たれて死ぬよりは副流煙で死んだ方がいいな」
「おい、」


その発言が彼にとっての御法度であることはわかっていた。心配してくれていた優しい表情の彼からは一転。そういうこと言ってんじゃねーよ、荒げることはなくただ低く唸るような声が耳に響いた。私が死んだからといってボンゴレは負けない。けれど、誰かが死ねばボンゴレのボスは悲しむ。それが下っ端の準構成員の中のわずか一人だとしても。それを、誰よりもボスを慕う獄寺は見たがらない。そういうことだろう。「何があっても打たれるとかそういうこと、言うんじゃねえよ。十代目が、十代目が。」ってこと。そうでしょう。少しだけ、悲しくなって目を細めた。


「違くて。いつか、獄寺がわたしを殺してね って意味」


ほくそ笑む私に、獄寺は不快感を通り越して意味がわからないといった風な表情で私を見た。あーあ、やっぱり、わかってくれないんだろうなって、そのくらいわかってた。だって君が知らない感情なんだもの。別に、わからないままでも君のことは嫌いになれないけど。でも、鏡みたいに私の感情を真似ている君では、私達の人より短いであろう一生をめいっぱい掛けたって私の気持ちなんて到底わからない。誰よりも愛してるって意味だよ。そう呟いてみても、獄寺はうっすら笑うだけ。あーあ。





セカンドハンドスモーク



ちょっとでも甘くしたかったのに!獄寺君かわいいよ〜〜う
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