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「夢みたいだと思ったんだ」千石くんはふんわりとした、それこそ夢を見ているみたいな瞳でそう言った。放課後の教室。今日は朝からずっと爽やかでいい天気だったから、夕焼けも鮮やかで。教室の私達を橙色に染め上げていた。彼の髪の色と同じだから、夕焼けは好きだった。照らされる私まで彼と同じようになれる気がした。透けるような明かりに照らされる千石君の淡いグリーンの瞳がキラキラ、ゆらゆら。とっても綺麗。私が千石君に告白した半年前のあの日もこんな時間だったような気がする。季節は違って、春らしくない寒い日。冷えた放課後の教室で、ついていないはずの暖房に寄り掛かって笑う千石君。今でもそれは目の前の彼よりもずっと鮮明に思い浮かぶ。あの時が一番幸せだった。自分のいっぱいいっぱいな感情に必死で、彼の都合のいい嘘にだって気付かないで笑えた。彼が言葉をかたどるその唇さえも、今じゃもううそっぽくて砂糖菓子のよう。ふわふわ、つるり、お菓子を作り上げるみたいに甘い言葉を次々と。完成された、計算しつくされた、綺麗なだけの、女の子を満足させるためだけの言葉が続く。ばかみたいだ。何度もそう思った。こんな舌先三寸に惑わされて騙されて味見するだけなんて自分に言い訳をして。手綱はとっくに握られてしまっているし、それを握り続けるのもハサミで切るのも彼次第だし、そのくらい私だって気付いているし。そわそわと自分の首筋に触れる。首輪なんてそこに存在しないのに、確かに繋がれている気がした。


「わたしも今、夢みたいだよ」

「ほんとう?それじゃあ同じだね、」


本当に幸せそうに照れているみたいに笑うから、なんて嘘が上手な人なんだろうと思った。偽の笑い皺でも愛しい。口角にそうっとキスをしたい。ああ、また騙されている。同じなんかじゃない。全部が違う。私が千石君に寄せる気持ちと、千石くんが私に感じる希薄な感情と、それとそれとが同じなわけがない。そんなの知っているくせに。そういうところだいきらい。「うん…、同じかもしれないね」呟いてみて、泣きそうになった。だって私には砂糖菓子が作れない。好きなのになあ。ダメな人を好きになってしまったものだなあ。それともわたしの舌でも、甘いお菓子が作れたらよかったのに。どっちにしたって、何を考えてみたって、私と千石君の相性が悪かったんだって思えば解決、してしまう。つまり運命が意地悪だった。デートを断られたあの夏の日からだ。あの日から私にはこの千石君との日々の全てが苦いんだ。にがい、くるしい。あまい、くるしい。いとしい、くるしい。夢で貪る甘いお菓子の、あってないような味なんて、目覚めてしまえば最後。忘れてしまう。忘れてしまえる。


「千石くんはきっと夢だから、消えたって悲しくなんかならない」


暫し彼はわからないみたいにキョトンとしたけれど、すぐに悲しそうにごめんねなんて。千石君のそんな最後の言葉だけは全然甘くなくて、なんでそんな中途半端な嘘を吐くんだろうなんて、まだ目覚められないわたしはただただ悲しくなった。





甘くできない



ちよ子さまへ/3周年フリリク企画
モアプリしててもわらかんと思うレベルで微妙に千石くんルート裏側。相変わらずよくわからん描写だぜ。
ちよ子さん企画参加ありがとうございました。本当は幸せな感じにしたかったのにもう書きだした所で諦めました・・。楽しく書かせて頂きました(^○^)これからもちよ子さんの文章が大好きです。愛を込めて。ありがとうございましたー!
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