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うちの学校の生徒会長は少し臆病で、なのに正義感が先を歩いているせいでいつも頑張るしかなくて、いつも頑張っていて、とても細くて、たまに困ったみたいに笑って、たまにワアワアとムキになって、そして楽しそうに笑って、いつも周りに誰かがいて、可愛い可愛い彼女がいて、いつもキラキラした人。

仙石翔。入学した頃からずっと私はひとつ上の先輩である彼を眺めていた。殆どの科目が学年トップらしくて、会長なのもあり、先生からよく名前を聞いた。たまにグラウンドを脇腹を抑えながら走る姿を見た。体育はすこし苦手なのだろうなと思った。その頃にはもう「仙石会長の彼女」で、とっても可愛い「綾崎レミ」の存在もまた、有名で。綾崎先輩は一度、私のクラスの担任への用事でクラスに入って来たことがある。柔らかそうな頬でにこにこと笑って、ピンク色のツインテールを柔らかく揺らして。プリントを提出するという用事を済まして綾崎先輩がクラスから出ていくと、途端に女の子達が口を揃えて「あの先輩かわいい〜!」なんて噂した。
そんな中で一人、わたしは廊下で無口に綾崎先輩の用事が終わるのを待つ仙石先輩を気にして頻りに視線を送っていた。

腕を組んで歩く姿を見た。嫌味にも感じられないほど爽やかに談笑して歩く姿に1年生は肘同士を小突きあってお似合いだねなんて声を潜めて言い合う。私の目にもそう映った。でも、そう思いたくはなくて。どう見てもお似合いの幸せそうな二人の影を睨みつけながらひそかに顔を顰めた。
喧嘩して速足で帰る綾崎先輩と、その後方で少し戸惑いながらその後ろ姿を見つめる仙石先輩を見たこともあった。別れるのかなぁなんて、微かに願望を覗かせながら仙石先輩の赤い髪を見つめた。困ったなあなんて言いたげに頭を掻く姿からは綾崎先輩とわかれる可能性なんて読み取れなくて肩を落とす。

話したこともない。目と目が合ったこともない。関りもない。ひそかな共通点もない。何も知らない。わからない。それでも好きだなぁなんて見つめることはやめなかった。



二年生になって、少しでも近付きたくて生徒会に入った。仙石先輩にとって、二年の後半から会長を務めてきた仙石先輩の、最後の生徒会長を務める三年前期の期間。生徒会には仙石先輩がいるという魅力のみで立候補して入ったが、そこにはもちろん綾崎レミも所属していて。仕事が出来ない人ではなかったが、ある程度以上に難しい仕事をさせると不安だからという甘やかされた理由で簡単な書記などを任されながらも、確かにそこで、みんなの憧れの存在としてにこにこと笑っていた。
関りが出来た。目と目が合った。会話をした。笑顔を見た。なんでもない会話までした。近くなればなるほど目の当たりにする仙石先輩と綾崎先輩とのカップルという関係性に何度も虚しい気持ちを味わい、けれど少しでも話が出来ればそれだけで心は弾んで踊って、何度も好きだと意識する。それで十分に感じた。



前期の生徒会が終わり、仙石先輩に覚えてもらおうと必死に仕事をしていた私は流れで生徒会長を引き継ぐことになった。仙石先輩が頼んだよと柔らかく笑う。それだけでやってやろうという気になった。三年生になる時には生徒会長はやらないだろうけど、先輩達が卒業する時、わたしが祝辞を読めるというだけで光栄で嬉しい。綾崎先輩が、私の肩にそっと手のひらを置いた。小さな、落ち着いた、ほんのすこし意地悪で、けれどすごく優しい声だった。


「ごめんね。でもきっと仙石くんは、あなたの気持ちに気付いていたから 会長、頑張ってね」


ハッとして綾崎先輩を見ると驚くくらい優しく笑っていて。やっぱりとても可愛らしくて、どこからどう見ても仙石先輩とその笑顔は悲しくなるくらいお似合いで、なんだかずるいなとまで思わされた。ああどうしよう。気付いていたんですか、先輩。いつから、どの瞬間に。私と仙石先輩のわずかな関りが急に縮み込むみたいに。結局は最初から手が届かない存在だった。届かないと思っていた気持ちだけが少しだけ届いていて、気付かないふりをしていてくれた。仙石先輩が優しくて、それはすごく嬉しいのに、ああこんなのやりきれないなあ。



花に触れる



喋ってないですね仙石会長。まとまらなかったです 綾崎レミを憎みながら憧れる話を書きたかったのにこれじゃあレミちゃんを憎んでるだけ 堀宮すきです
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