◎ | ナノ

カヲルくんが漫画版の彼とアニメ版の彼の間みたいな性格をしてる/時期があやふや/





目を覚ます。朝が来たようだった。朝日は確認できなくて、まだ薄暗い部屋の中、それでも朝はここまでたどり着いたのか。少し憂鬱で、瞼は重たいまま、視界で揺れる白い姿。焦点の合わない世界でその指先を求めた。子猫みたいにか細い首や指の関節、どれも白くて鮮やかな存在。それはしばしば私の目には異形に映った。

「…何処へ行くの、」

振り向く彼の瞳は赤くて、いつでも爛々としていて、そのせいかいつも少し子供っぽい顔つきに見えた。とは言え実際も15歳の子供なのだ。どんなに大人びたことを口では言えても。どんなに狂った思考を持ち合わせていても。彼はまだ子供だ。

「あぁなまえ 悪いね。起こしてしまったかな」
「何処へ行くのってば」
「僕は何処へも行かないさ 最後の時が来るまでは、何処にも」

不敵に微笑む彼が気に喰わない。いつでもそうなのだから。はぐらかすみたいにいつでも笑っていて、私の話なんて聞いちゃいない。彼がよく口にする「最後の時」や「13番目」や、そんな言葉の真意をわたしは知らない。彼にはそれを私に教える気もない。全てをわかっていながら私は彼に毎日話しかける。飽きもせず、飽きもせず。彼が孤独になってしまわないように。少しでも長い時間、彼が孤独にとけこむことを選ぶことを食い止められるように。うっすらと感じる彼の運命を、少しでも。

「ほんとう?」
「あぁ 嘘なんて吐かないよ 君にはね」
「そう…。ねぇ今、何時か教えて」
「6時だそうだ。尤も、あの時計は少しずれていると思うけど」
「私達には丁度良いよ」

6時か、普段ならまだまだ夢の中に沈んでいる時間だった。急ぐことはない。あてにならない時計をあてにして動けばいい。ずれている針は君のようでいいと思う。そういうのって愛しくなる。矯正しようと思わない。そのままずれてゆくならそれもいい。
カヲルは私の思考を知ってか知らずかふと笑った。端正な顔に浮かぶそれはいつでもきれい。

「そうかもしれないね。もう少し寝ていたらどうだい?」
「そうする。カヲルも一緒にいて おねがい」

あぁ 短く優しく頷いて、カヲルは布団の上に直接寝転がった。白い肌の匂いが近付いた。

彼の孤独が迫り来るのをどんなに遅らせたところで。足枷を首輪を鎖を付けたところで。何処にも行かないで、なんて言ったって。いつものように笑うだけで、彼には聞こえないんだろう。足枷も首輪も、鎖すら、彼には意味のないこと。きっと触れただけで融かしてしまう。それを知っていたから、私は彼を縛ることを諦めていた。うそみたいな笑顔が本物のうそになるところを見たいわけじゃなかった。

「おやすみ」


だけど実際は 思っていたよりもずっとずっと早く彼は何処かへ行ってしまった。
白い朝に白い彼の姿はなかった。目を覚ました時すぐにわかった。体温も残らない布団を撫でる。誰もいない。滑らかで白くて浮世離れした表情を浮かべて笑う天使のような渚カヲルは ああ 行ってしまった。もう少し、留まっていてくれると思っていたのに。オワリはひどく唐突で、単純に寂しさを覚えた。これから彼の言っていた「最後の時」が来るのだろうか。結局彼は何も教えてくれなかったから、わからないけれど。
何処にも行かない、うそなんて吐かない。それすら渚カヲルの奏でる美しい虚言でしかなかったのだ。彼の瞳みたいに真っ赤な真っ赤な嘘だった。
白くて細くて儚い少年の指先にだって少しの力が加われば仔猫を殺してしまえるような そんな当たり前の、恐ろしい、狂ったような現実であり、嘘であった。

少年の最後の時が迫り、彼は暗くてこわいはずの孤独に溶け込み、そしてどうなるのだろう。愛していたのに なんて言っても最早微笑んですらもらえないから、彼を縛ることは諦めたはずだから。だから、せめてもの、最後の希望が捨て切れなくて。きっと私はもう何処にも行かない。彼が最後に言ってくれたみたいに、おやすみを呟いた。



地球とわたし、ここに永眠す

title/へそ 矛盾点とかそういうことについて考えたら負け
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -