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仁王くん、手、繋ご

掠れるほどちいさな声だった。しかし隣で歩いていた俺にはちゃんと聞きとれた。許可なんか取らんでもええし。そんな意味も込めて、聞こえないフリをする。隣で俯く彼女の姿はギリギリ視界に入っていた。それを見届けてから、俺はこっそりと彼女の手首ほどまでに指を近づけて、なんでもないみたいにふっとぶつける。ちょっとわかりやすかったみたいで、彼女はハッと顔を上げた。おーおー、不満げじゃ。

「仁王くん、趣味わるい…。聞こえてたのに、」
「だって俺名字の声聞き漏らさんし」
「だったら尚更聞こえてないフリなんてしなくても」
「手ぇくらい自分から繋いでみんしゃい」

小さく本音を織り込んで、いじわるく少し速足で歩いた。いきなり開いた距離に素っ頓狂な声をあげた名字の急いだ足音が聞える。正直なところ、大人しくて恥ずかしがり屋な彼女からでは手を繋ぐことすら出来ないと思っているから、最終的にはちゃんと俺から繋いでやるつもりだが。
なんだかんだ甘やかしているのは俺か。そんなこと気づいてはいたけれど。

「(姫さんはえらく手がかかるのう)」

気障な例えに自分でも失笑するしかなくなってしまい、もうそろそろ不安げな表情でもしてすぐ後ろをひっついているのであろう名字を振り返ろうと意識を逸らせた。途端に、後ろからなにか暖かくてちいさな感触に思い切り手を引かれバランスを崩す。
足をつこうとしたけれど、ちょうどいい目標地点を映しこんだ視界には俺と比べると幾分か小さな足があり、これはどうしたものかなんて暢気にも考えていられなかった。転ぶ?俺、彼女の前で転ぶ?
なんて考えていたら目の前の小さな腕に抱きかかえられる形で支えられてしまった。格好悪い。悪すぎる。笑えん。顔をあげると名字が焦った表情で俺を見ていた。

「仁王くん!ご、ごめんね!引っ張りすぎた…!」
「いや、俺こそ油断しとったし…あ、重たかろ、すまんの」

ようやく支えられていた体勢から自立すると、いや男の子ってもっと重たいと思っていたけど、なんてもごもご言う名字。いやそこはなんかもっと違う言葉があったはず。素直な奴じゃ。話が逸れたことに気が付いたのか、名字は慌てながら「でもっ」と口を開いた。

「でも今のは仁王君が悪いんだよ!私だってこのくらいできるんだから!」

顔を真っ赤にして珍しく大きな声をあげて、もういちど俺の掌を掴み引っ張った名字。今度はとてもいい予感がするから、バランスを崩さないようにしながら素直に引っ張られてやろうと思う。



お姫様にも魔女にもなれる

title/tutu 仁王くん運動神経異常に良いんだから彼女の足くらい避けて足つけられる絶対 書きたかったものとはいくらか違う結果になった
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