ずうっと泣いていたから。
ずっとだった。夜通し泣いて、もう疲れてしまっていた。でも泣くこと以外に何もしていなかったから、体力は消耗しても、すっと眠りに落ちることも出来なくて。
あ、ひからびちゃう。そう感じて机の上のぬるくなった水がたっぷり注がれたグラスに手を伸ばしたときにはもう遅かった。視界がぶくぶくと沈むのを見た。
誰かのひんやりした温度が頬と唇に触れた。
そう思ったらゆっくりと意識が水面に浮上して、視界の薫が霞んで見えた。
わたしが感じたひんやりとしたものは彼の掌とグラスだった。私が倒れた音を聞いてすぐに一階から駆け付けたようで、私が掴み損ねたグラスから零れた水が机からも食み出してぽたぽたと音を立てて滴っている。
口の周りと襟元が酷く濡れていることに気が付いた。ずっと水を飲ませようとしてくれていたのだと分かった。そういえば、さっきほど口の中が渇いていない。もう大丈夫なんだと思えた。倒れて意識を手放すとき、ほんとうに、ああこのまま気付かれずに死ぬかもしれないとそう思った。些細なところで死は待っている。今の私はそれを知っていた。
死んでいればわたしも彼のところへ、行けたのかなぁ。
白いレースのカーテンが風を受けてぶわりと膨らみはためく。
「飲め、」
そんなわたしの縁起でもない考えを察知したかのように、薫は私の口元にもう一度グラスを押しつけた。求めていたはずの水はぬるくてまずかった。
きっと今のわたしは化粧もしてないし、ひどく泣き腫らした目をしているだろうから、とっても不細工だろうなあ。ああ、憂欝だなあ。
あぁでも。
こんな姿じゃ死んであっち側へ行ったとしても彼に会わせる顔もなかったや。こんな顔を見せるのは薫だけで十分。
ありがとうを言うその前に、もう少し泣かせてもらいたい。そう感じた。
きっと彼なら許してくれる。そう思うと楽だった。なにもかも受け入れてくれる存在を見つけた。言うならば真っ白であたたかいベッドのような、言うならば真っ青で冷え冷えとした夜のような。その中で融けて目を瞑るだけで心地がいい。その裾を握りしめて、泣く準備のために、もうひとくちと水分を身体に取り入れた。彼はそれをゆるしてくれた。
夜融病
title/食用
死んだのは幸村とかそこらへんならば自然ですかね 日吉がしっくりくるんですけれども