◎ | ナノ

もうどれくらい経っただろう。君たちが負けてから。彼らが栄光を手にしてから。君が、最後の全国大会を後にしてから。

全国大会のあった暑い暑い夏休みも、課題に終われている間に終わり、気が付けばもう二学期が始まっていた。テニス部の全国大会準優勝はもちろん全校に知れ渡り、輝かしい成績として校内新聞のトップニュースになった。
ちがうのに。彼らはこんなのをトップニュースにしたかったのではない。一番大きな輝くトロフィーを今年も立海のものにして、みんなで笑顔になりたかったのに。その夢は叶わなかった。赤也が二位の証である銀の盾を睨みつけて、泣きながら絶対俺が取り返しますって、そう言った。もっと強くなって、全部勝ちます。そんな赤也に彼らは、自分たちだってもっと大泣きしたいくせに、先輩ぶっちゃって。頼もしいなって、任せるぜって、泣くんじゃねえよって、頬を少しだけ濡らして笑ってた。幸村が、いい試合だったって、そう言った。わたしはそれを見ながら嗚咽で呼吸が苦しくなってて、まともに喋れなかったから、柳がずっと背中をさすってくれていた。みんなの方が泣きたいはずなのにって、もう一回思った。



「真田、おはよう」
「ああ、おはよう」

ちょっと早めに家を出たら、真田に会った。自然と横に並んで歩いた。
夏はまだもう少し続くみたいで、暑いだけの夏ならば早く秋が来たらいいのにと思った。振り返ったら夏がキラキラしているのではないだろうか。そう思うとやっぱり秋が待ち遠しくなった。
真田があの日目尻を濡らしていたことは知っていた。けれど、副部長として、解散までずっと凛としていた。今日もまた、いつもの、全国大会前の真田を見ているみたいだった。

「ねぇ真田、わたしたち、負けちゃったんだね」
「そうだな」
「悔しい」
「あぁ」
「まだ信じらんない」
「うん」

ぼうっと、目の前の真直ぐに続く道を眺めながら、そんな言葉ばかりがぽつり、ぽつり、次第につらつらと口を突いて出た。真田はそれをゆっくりと噛み砕くようにしながら、短く私の言葉に答えていく。

「まだ、みんなで三連覇を目指してる気分」
「あぁ、俺もだよ」

俺もだと、そう言った真田の横顔を見ていた。

「…泣いてもいいのに」
「俺達は出来ることの全てをやり切った」
「知ってるよ」
「だが、やはり少し、いや、すごく」
「うん」
「やり直したい気分だ、今、すごく」

すごく素直な言葉だと思った。やり直すことなんてできないからこそ悲痛だった。
そうだね 薄く口を開いて呟いて、真田の堪えたような嗚咽が漏れ出す瞬間は目を瞑ってあげた。私はもうたくさんたくさん泣いたけど、きっと彼は泣けてなかったんだ。「学校、遅刻してっちゃおうか」いまだけでもいいから、優しさを雨みたいに降らせられる人になりたかった。




あなたは黙って泣けばいい


(そしたらいつか雨になる)

title/告別 誕生日に間に合わなかったしいつも通りキャラ空気だし
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -