![くろみつさまから15000打フリー](//static.nanos.jp/upload/s/skipper4/album/3/0/20100827155232.jpg)
目の前には、まるで絵本の世界から飛び出したかのようなお城。周囲の森が何だか神秘的な雰囲気を醸し出していて、本当に自分が絵本の登場人物になったかのようだ。
「うわー、すげぇ…」
「そうだね…」
正門まで来てみると、首をぐっと動かさないとてっぺんが見えないぐらい大きい。観光客の何人かは写真を撮ったりしている。
「中、入ろうぜ!」
「うん!」
好奇心に目をキラキラと輝かせている彼は、何だかすごく幼くて。
彼が迷子になりそうで不安だったので、
「手繋ごう?」
「おうっ」
ぎゅっと手を握り返せば、にっこりと笑う彼。それだけでもう幸せで、心臓が破裂するんじゃないかと思った。
「ここのお城はね、……」
ゆっくりと歩きながら、このお城について解説する。昔勉強した知識が、今役に立って、ほっとし。
正直長ったらしい話なので、彼は眠そうにするのかと思いきや、真剣に俺の話を聞いてくれていて嬉しくなった。
「ヒロトは物知りだな」
「そう?」
「俺そういうの全然覚えらんねぇし」
「意外とこういう歴史とか好きだからさ」
「へぇ」
「でも、知らない事もいっぱいあるよ」
「例えば?」
「んー…、今日の晩ご飯でしょ」
「あははっ、そりゃわかんねぇや」
「綱海くんみたいに海に詳しくも無いしさ」
「言ってくれれば教えんのによぉ」
「本当?」
「おう!」
「じゃあついでと言うのもなんだけどさ」
「ん?」
「綱海くんの事をもっと知りたいな」
「…え?」
「他の人が知らないような君を知りたいんだ」
指を絡めて力を込めれば、恥ずかしそうにこちらを見つめる彼。
この興奮をどうにかしたくって、彼の手を握ったまま階段を踊り場まで駆け降りる。
着地した勢いでそのまま彼の方へと振り返り、思っていたより華奢な体を抱きしめる。
「うわ…っ」
ふわりと揺れる髪からかすかなシャンプーの香り。
「もっと君を教えて」
耳元でそう囁けば、また真っ赤になったお姫様は、ゆっくりと頷いた。
鐘が鳴ったら逢いませう
(君の全てを知りたいんだ)