くろみつさまから15000打フリー

目の前には、まるで絵本の世界から飛び出したかのようなお城。周囲の森が何だか神秘的な雰囲気を醸し出していて、本当に自分が絵本の登場人物になったかのようだ。


「うわー、すげぇ…」

「そうだね…」


正門まで来てみると、首をぐっと動かさないとてっぺんが見えないぐらい大きい。観光客の何人かは写真を撮ったりしている。

「中、入ろうぜ!」

「うん!」

好奇心に目をキラキラと輝かせている彼は、何だかすごく幼くて。
彼が迷子になりそうで不安だったので、

「手繋ごう?」

「おうっ」

ぎゅっと手を握り返せば、にっこりと笑う彼。それだけでもう幸せで、心臓が破裂するんじゃないかと思った。



「ここのお城はね、……」


ゆっくりと歩きながら、このお城について解説する。昔勉強した知識が、今役に立って、ほっとし。
正直長ったらしい話なので、彼は眠そうにするのかと思いきや、真剣に俺の話を聞いてくれていて嬉しくなった。

「ヒロトは物知りだな」

「そう?」

「俺そういうの全然覚えらんねぇし」

「意外とこういう歴史とか好きだからさ」

「へぇ」

「でも、知らない事もいっぱいあるよ」

「例えば?」

「んー…、今日の晩ご飯でしょ」

「あははっ、そりゃわかんねぇや」

「綱海くんみたいに海に詳しくも無いしさ」

「言ってくれれば教えんのによぉ」

「本当?」

「おう!」

「じゃあついでと言うのもなんだけどさ」

「ん?」

「綱海くんの事をもっと知りたいな」

「…え?」

「他の人が知らないような君を知りたいんだ」


指を絡めて力を込めれば、恥ずかしそうにこちらを見つめる彼。
この興奮をどうにかしたくって、彼の手を握ったまま階段を踊り場まで駆け降りる。
着地した勢いでそのまま彼の方へと振り返り、思っていたより華奢な体を抱きしめる。


「うわ…っ」

ふわりと揺れる髪からかすかなシャンプーの香り。






「もっと君を教えて」







耳元でそう囁けば、また真っ赤になったお姫様は、ゆっくりと頷いた。







鐘が鳴ったら逢いませう

(君の全てを知りたいんだ)








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