「39度7分…完全に風邪だね」
「……」
「大人しく寝ていなよ」

ベッドでぐったりと仰向けに寝そべる私をヒソカは一撫でした。
本日の朝、私は背筋に嫌な悪寒と身体のだるさ、おまけに熱っぽさを感じた。あ、風邪かも、なんて呑気に思ったはいいが予想外なくらい身体に力は入らずベッドに突っ伏したまま動けなくなった。このままじゃまずい、そうは思って携帯で誰かを呼ぼうかと思ったが携帯電話さんは今私の寝ているベッドの逆側に置いてあるチェストの上で充電器さんと仲良く寝ていることを思い出す。身体を動かすどころか腕を動かすのも辛い私に打つ手は無いと諦めた瞬間だった。彼、ヒソカは我が家に来たのである。いつもアポ無し+不法侵入(しかも鍵だけじゃなくチェーンまで閉めてるのに普通に入られる不思議)で普段の私ならヒソカに怒ったり騒いだり警察呼んだりとかをするものだがこの時ばかりはこの変態ピエロが天使か何かに見えた。
ぐったりとしている私を見てヒソカは察したのか「ちょっと待っててね」なんて言って勝手に人の家の引き出しを漁り出しては体温計を持ってきてくれた。何で知ってたとかこの際もう突っ込まない。そしてその体温計で熱を計って現在に至る。
彼は一度立ち上がり、今度は戸棚を勝手に漁って薬箱を取り出して(だから何で知ってるんだ)中身を漁る。その中から風邪薬を見付けたのか小さな箱を一つ取り出して薬箱を戸棚にしまってからこちらに戻ってきた。

「食後に二錠だって。食欲ある?」
「あんまない…」
「何なら食べれる?」
「……胃に優しいもの?」
「何で疑問系なんだい?」

彼はやれやれ、と困った様に笑いつつ再び私の寝転ぶベッドから離れては今度はキッチンの方へと向かった。何か用意してくれる様だ。案外優しい、なんて思いつつ彼がキッチンで何をしているか気になり目を閉じてそっと聞き耳を立てる。ぱかっ、と冷蔵庫が開けられた音がしたのと同時にヒソカの「うわ、ビールと焼き鳥しかないとか…女の子として大丈夫かなぁ」という大きなお世話とも取れる独り言が聞こえた。そして何やらガチャガチャとした音が聞こえたと思ったら次の瞬間シュパッ!という無駄に小気味はいいが料理には決して有り得ない様な音がした。あいつなにやってんの!?と不安で一杯になりながらキッチンに向かうため、慌てて起き上がろうとすれば身体に上手く力が入らない。動け!私の身体!とかなんだのしている間に今度はごりごりごりぃ!と石を壁に押し付けて思い切り擦った様な音が聞こえた。キッチンや料理器具は壊されてないだろうか。いや、それ以前に私は何を食べさせられるんだろう。
ヒソカが一体何をしているのか不安を募らせていたらいつものニヤニヤピエロスマイルでヒソカがお盆に料理(?)と水が入ったグラスを乗せてやって来た。

「……な、なに作ってたの?」
「林檎すりおろしてただけだよ。これなら食べやすいだろう?」

ほら、と言って林檎のすりおろしが入った器を私に見せてきたヒソカ。……見た目は普通だ。しかし作業工程が疑問過ぎる。林檎のすりおろし作るだけであんな戦場でも早々聴かない様な音がでるんだろう。……何はともあれ、普通に食べれそうだからヒソカに器とスプーンを寄越せと手を伸ばし意思表示をすれば華麗にスルーされた。

「ヒソカ…」
「あーん」
「…自分で食べれ」
「あーん」
「だからヒソ」
「あーん」
「……」

大人しく口を開けた。それを見てヒソカは満足そうに笑いながらスプーンで林檎を掬って私の口の中に入れる。甘い林檎の味と独特の舌触りが口の中一杯に広がった。ヒソカが「美味しいかい?」と聞いてきたから素直に頷いたらヒソカは笑顔でもう一杯林檎のすりおろしを掬って私の口元に持ってきた。だからそれ恥ずかしいからやめろ、そう睨んでも彼は笑顔を絶やさずに、「あーん」と私の口元に林檎の入ったスプーンを突き付ける。結局器の中が空になるまでヒソカにあーんされた。

「次は薬だね」

空になった林檎のすりおろしが入っていた器とスプーンを片付けたヒソカは風邪薬と思われる錠剤を二粒と水が入ったグラスを手に持っていた。それらを受け取ろうとヒソカの方へと手を伸ばすがその手は何も掴めず空を切る。疑問に思いながらヒソカを見れば健康体には全く必要の無い錠剤を己の口に入れてついでに水も口に流し込んでいた。

「え、ヒソカ……んっ!?」

意味のわからない彼の行動に疑問符を浮かべたと顎を掴まれ同時に唇を奪われた。そしてそのまま唇を舌で割られ強引に私の舌を引っ張り出し絡めたと思ったら口の中に冷たい何かが流れ込んでくる。それが水と薬だったことを理解したのは大分後で唇を一向に離さず、それどころかそのまま口内を舌でぐちゅぐちゅと荒らしてくるヒソカを殴ろうと拳を振り上げた。しかし病人のへなへなパンチだったせいかヒソカは意図も容易く私の腕を掴み、阻止した。それでも最後の抵抗にと身体全部を使いじたばたと暴れるがヒソカは簡単に私を押さえ込み、全く唇を離さない。

「んっ、ふぁ、ん、!んぅ、ぁ」

口の端からどちらのものかもわからない程混じり合った唾液が垂れた。舌が絡め取られ、口内を好き勝手荒らされてるせいか上手く息ができない。苦しい。ただでさえ熱があって意識が朦朧とするのにそれに呼吸困難まで加えるとかこいつは私を殺す気なんじゃないだろうか。抵抗とか最早そんな気は無くただ純粋に酸欠を訴えるためにすっかり力の抜け切った手で彼の胸元を数回叩けばヒソカは唇を離した。お互いの舌と舌から繋がり、直ぐに途切れた糸が妙に恥ずかしかった。

「なん、で、こんなこと!」
「せっかく看病してあげてるんだからこのくらいのご褒美貰ったっていいだろう?」
「ご褒美って…!」
「正直ちょっと辛いんだよねー。キミは気づいてないだろうけど熱のせいで目は潤んでるし頬は赤いし呼吸もちょっと荒いし汗ばんだ首筋とか額とかセックス中みたいでさ、本当に美味しそう」

そう言ってヒソカが再び顔を近付けてきたので思わず固く目を瞑り身構えれば唇に柔らかい感触が降ってきた。そのままちゅ、と随分と可愛らしいリップノイズを立てて唇を離したヒソカは私の汗ばむ額を優しく撫でてにっこりと微笑んだ。

「まぁ、流石に病人襲うほどボクも鬼じゃないよ」
「……」
「信用ならない、って顔してるね。キミが望むなら襲ってもいいんだよ?」
「いや、いいです。遠慮します」
「ちょっと残念…。ご飯も食べたし薬も飲んだしもう寝た方がいいんじゃない?ボクなら大丈夫。キミの隣で寝顔見てるから」
「……」

それもそれで凄く嫌だ。まぁ、薬の副作用なのか先程から眠くなってきたところだしヒソカのお言葉に甘えて瞼を下ろせばおやすみ、という言葉と共に今度は額に唇が降ってきた。その感触が妙に心地好くて思わず頬を緩めた途端に隣でぼそっと聞こえた「やっぱり襲おうかな…」という変態の言葉は幻聴ということにして眠りに落ちた。

20110301