※学パロ 私の隣の席の男の子の名前はイルミ=ゾルディックくんという。彼はここらじゃ一番の金持ちと言っても過言じゃないゾルディック家の長男で成績は大変優秀、お顔は綺麗に整っていて何を考えているんだかわからない大きな目とシャンプーのCMに出演依頼が来そうな美しい長い黒髪のせいかイケメンという言葉より美人という言葉が似合う珍しいタイプの男の子である。その綺麗な顔と非常にドライな性格と無表情、淡々とした口調が相俟って超高性能なアンドロイドなんじゃないか、って言う人も出てきているらしい。 彼はよく(って程でも無いけど)クロロくんとヒソカくんとつるんでいる。クロロくんは一部の同級生や下級生から「団長」というあだ名で慕われている。よく知らないが何かのグループのリーダーらしい。時折団長モードと言われるオールバックになるイケメンである。あと彼は最近下級生のクラピカくんにお昼休み(本人曰くコーヒーブレイク中)にその素敵な顔面を殴られるという事件があった。詳細は不明だが二人は犬猿の中らしい。 ヒソカくんというのはこの学校で先生達には内緒で新聞部が行った校内ランキングの「危険だと思う人」の部門でぶっちぎり1位を獲得した第一級危険人物である。因みに最近聞いた話では近所の小学六年生を見てニヤついていたという。逃げてー!あと特技は手品、らしい。よく知らないけど。トランプでタワーを黙々と作っていたのは何度か目撃した。そんな危険な彼だが顔はその危険ささえ霞ませるレベルのイケメンである。 そんな個性的なイケメン二人と並んでも霞みもしないイルミくんもタイプは違えどイケてるメンズであることは変わりない。 「ねぇ、それ頂戴」 私のお弁当に入っていたお母さん特性の可愛い顔つきのタコさんウィンナーを指してイルミくんは言った。何を考えているのかわからない無表情と大きな黒い瞳でこちらを見詰める彼に私は溜め息を吐きつつも彼の前にお弁当を突き出す。タコさんウィンナーをお箸で刺して自分のお口の中に拉致していった。もう何回目だろうか、彼がこうして私のお弁当のおかずをねだりにくるのは。ちくちくと刺さる様な女子の視線にはもう慣れてしまった。 始まりは彼と隣の席になってからである。昼休み、自分の席でお弁当を開いて友達を待っていたらイルミくんが横からお弁当を覗き込み、私のお弁当にデザートとして入っていた林檎のうさぎさんを指差し先程の様に「頂戴」と言ってきたのである。隣の席、という以外接点が全く無いイルミくんのいきなりの要求とその様子を見た女子の肉食動物の如き鋭い視線にパニクった私は慌ててイルミくんに林檎を差し出した。お弁当箱から林檎のうさぎさんを一匹拉致し、無表情ながら満足そうに口に咥えるイルミくん。それからである、彼が私のお弁当から何かしらおかずを拉致していく様になった。 「イルミくん自分のお弁当あるでしょ」 「うん、目の前にあるじゃん。見えてないの?」 「いや、見えてるよ。私が言ってるのはそういう意味じゃ…ちょ、然り気無く卵焼きを取っていかないで!」 「これキミが作ったんでしょ。みりん多過ぎ」 「人からぶん取っておいてその感想とか…」 溜め息を吐きつつ生き残っていたミニハンバーグ(冷凍食品)を口に入れる。イルミくんが私のところに来る様になってから何を勘違いしたのか今まで一緒に食べてた友人たちからは「ごゆっくりー」と変な気を効かせて逃げられる様になってしまった。それから私の昼休みはイルミくんと二人だけである。 「…イルミくんはさ、何で私のお弁当ばっかり狙うの?」 「何でだろう」 「お弁当欲しいならもっと美味しいやつ他の娘から沢山貰えるでしょ。…具体的に言うと後ろの女子達とか」 後半の台詞は声をなるべく小さくし、私の後ろの方で時折こちらに鋭い視線を向ける女子達に聞こえない様に言った。イルミくんは自分のお弁当のプチトマトを口に含み机に肘を付いて何か考える様な仕草をする。相変わらずの無表情に彼が一体何を考えているのか私には検討もつかない。暫く何か考えていた彼は先程の私に合わせる様に周りに聞こえない様な小さな声で言った。 「オレはさ、あんな奴らのお弁当とか美味しそうに見えないんだよね」 「え?」 「何かキミだけなんだよ、美味しそうに見えたの」 「あの、イルミくん…言ってることの意味が…」 「オレもわからないんだ。何でだろう」 そう言ってイルミくんは私のお弁当の隅っこにあった林檎のうさぎさん二匹の内一匹を何の許可も無くお口の中に誘拐していった。私はただぽかんと口を開けて彼が林檎のうさぎさんをしゃくしゃくと音を立てながら飲み込んでいくのを見ていた。じわじわと顔に熱が集まっていくのがわかる。イルミくんのこの言葉を私なりに解釈したら凄い自惚れになってしまったからだ。 沸騰しそうな頭をクールダウンさせて冷静に考える。その解釈は有り得ないだろう。きっとイルミくんが私のお弁当を取っていくのは何か他に理由がある筈だ。今のところ検討がつかないけれど。 「お弁当取るのとかもそうだけどさ、そういうのは彼女にやんなよ」 「彼女ならやっていいの?」 「彼女さんの性格によるけど、いいんじゃないかな?」 「ふーん…じゃあ彼女になってよ」 「……え、誰が?」 「キミが」 二匹目の林檎のうさぎさんを拉致しながらいつもの無表情でイルミくんは言った。頭の中が真っ白になる。幸いなことにお互い小声で話していたせいか後ろの女子達には聴こえていない様子。一瞬真っ白になった頭の中が今度はぐちゃぐちゃに掻き回された様にぐるぐるしていく。 え、イルミくんなに?何て言ったの?彼女?いやいやおかしいでしょ。彼女って、彼女って!恋人ってそんな簡単に決められるものなのか。美形の考えることはわからない。美形差し引いてもイルミくんは常に何考えてるかわからないのだけれど。 「明日からオレの分のお弁当もよろしくね」 イルミくんの言葉と同時にお昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。頭の中は真っ白でぐるぐるするけど顔は真っ赤で熱い。多分明日の私はイルミくんの分もお弁当を持ってきているんだろうな、なんて漠然と思ってしまった。 20120301 |