彼と出会ったのは偶然だった。偶々友人に誘われて天空闘技場の試合に見に来た際に変な輩…所謂柄の悪いチンピラみたいなのに肩がぶつかったの何だのな理由で絡まれたのだ。流石天空闘技場、気性の荒い猛者達の集まりですねー、なんて言葉が今なら出てくるけどその時の私は半泣きでそのチンピラにビビりまくっていた。だって相手は三人掛かりで「姉ちゃんこの落とし前どこで付けてくれんの?身体で払えや」みたいなこと言ってくるのだから泣きたくもなる。その時友人は諸事情で早めに帰ってしまい居らず、周りにいる人に目で助けを求めたが華麗にスルーされた。半泣きどころかマジ泣きの私の胸ぐらをチンピラの一人が掴んできた。このままじゃ酷い目に遭う。必死でじたばた抵抗していた最中、チンピラの一人が吹っ飛ばされた。
何が起こったのかわからなくてぽかんとしていたら続いてもう一人、更にもう一人(私の胸ぐら掴んでいた奴)が道端の小石が蹴飛ばされた様に吹っ飛んでいった。

「お姉さん大丈夫?」

目の前のことが理解できて居らず呆然と立ち尽くす私の耳に予想もしてなかった幼い声が響く。その声がした方向を見れば自分より身長も年齢も一回りくらい小さい銀色の髪をした少年が立っていた。この少年が助けてくれた、普通に考えればわかることが混乱していて頭が回らず事態が上手く飲み込めなかった。取り敢えずチンピラに酷い目に遭わされる未来だけは回避した、それだけ理解した私は安心からか身体の力が抜けてその場にへたりこんでしまった。

「本当に大丈夫?」
「う、うん…」

そう言って銀髪の少年はへたり込む私に手を差し伸べて立たせてくれた。優しい。頭の回転が遅い私はこの少年が私のことを助けてくれたことを漸く理解した。

「助けてくれて、ありがとう」
「別に。こいつら通路のど真ん中にいたから邪魔だったから蹴っただけだし」

廊下の壁に激突して伸びてるチンピラ×3を指差して少年は笑った。理由はどうあれ助けてくれたのは事実だよ、ありがとう、と再度お礼を言えば少年は今度は少し照れ臭そうな顔をして目線を逸らした。ちょっと可愛いなーなんて思って笑ったら今度は不満そうにむすくれた顔をするからまた可愛いと思ってしまう。
その後、お礼に天空闘技場の近くの喫茶店でケーキをご馳走した。少年の名前はキルア。キルアくんは今ゴンくんという友達と一緒に天空闘技場で修行中らしく、現在は200階の闘手らしい(小さいのに凄い)
売店にお菓子を買いに行こうとしたら偶々絡まれてた私を発見、通路ど真ん中にいたチンピラが邪魔だったから蹴ったらしい。随分と男らしい少年だ。
ケーキを二人でもこもこ食べながらそこそこ仲良くなった私達は(元々私の住まいが闘技場から近いのもあって)何度か会ってはお茶をする様になった。

「でさーゴンのやつがさー」

天空闘技場の近くの喫茶店の角の席。楽しそうにゴンくんという友達の話をするキルアくんに思わず顔が綻びながらも相槌を打った。身振り手振りしながら一生懸命楽しそうに私に色んなことを話してくれる彼は年相応の少年らしく可愛らしい。だけど時折浮かぶ、年不相応な大人びた表情や悪戯っぽい笑みが異様に魅力的に見えてしまい彼のつり目がちな瞳と目を合わせるどきりとして思わず顔を逸らしてしまう。
湯気の立つ紅茶に口を付けながら彼の話を聞き続けていれば不意に彼の仕草と口が止まった。どうしたんだろう、と首を傾げればキルアくんはどこか心配そうに私の顔を見た。

「キルアくん、どうしたの?」
「ナマエはさー」
「ん?」
「オレの話、つまんない?」
「え、何で?」
「さっきから頷くだけであんま話さないし目が合ったら顔逸らすしでさ、オレの話つまんないのかなーって」

少し不満そうな顔をしてストローを口に咥えてずずずーっ、と音を立ててオレンジジュースを飲むキルアくん。何か盛大な勘違いをされてる様だ。私はキルアくんの話はとんでもなかったり面白かったりで大好きだし顔を逸らすのはキルアくんの表情や仕草が可愛かったりかっこよかったりで目が合うと照れ臭くなってつい逸らしてしまうだけである。

「キルアくんの話はつまんなくないよ、寧ろ面白いから私は好きだよ。この間のゴンくんの話とか仕事中に思い出し笑いしちゃったくらいだし」
「本当?」
「本当」
「ならいいんだけどさ、」

照れた様に顔を逸らしたキルアくんは可愛いくて思わず笑ってしまった。笑うなよ!と怒られた。

「ごめんごめん、キルアくん可愛いんだもん」
「可愛いなんて言われても嬉しくねぇ…」
「ケーキもう一個奢るからから怒らないで」

ぽんぽん、と綺麗な銀髪を軽く撫でればキルアくんは膨れっ面のままメニュー片手に店員さんにフルーツタルトを頼んだ。フルーツタルトはこの店のケーキで一番高いケーキだった。容赦が無い。程無くして運ばれてきたフルーツタルトをキルアくんは一口分に切ってフォークを突き刺して私に向けた。

「え、どうしたの?」
「一口やるよ」

うわ、優しい。お言葉に甘えて行儀は悪いが少しだけ身を乗り出して中途半端な位置に差し出されたフォークに近寄る。その瞬間、唐突に頭を掴まれ引き寄せられたと思ったら唇に柔らかいものが触れた。ケーキでは無いことは明らかだった。
自分の唇からキルアくんの唇が離れた瞬間、何をされたのか理解して顔が一瞬で茹で蛸に早変わりして頭の中は大混乱を招き始める。

「これでもまだ可愛い?」

そう言ってにやりと笑う少年は全く可愛くなかった。

20120307