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緑簾石+他鉱物

※男エクラ
※エクラに対する自己解釈(口調・魂や存在そのもの等について)が多分に含まれます。
※覚醒DLC通過済み推奨



「……ルフレさん……!!」


 はし、と僕のローブを掴んで僕に声をかけたのは、今召喚したばかりの女の子だった。
 ルフレ、ルフレ。その名前は僕もよく知っている。アスク王国に喚ばれたばかりの頃に僕が召喚した青年の名前がルフレだったからだ。
 でも、それは彼の名前であって僕の名前ではない。それでも彼女は僕のローブを掴んでその名前を呼んだ。彼のものとは違う、特務機関の白いローブを掴んで。


「えっと……、ごめん、人違い……だと思うよ」
「え……あ、白い……」


 ルフレが着ているローブは黒地に紫の紋様を施したローブで、僕が来ている特務機関のローブ──白地に金の紋様だ──と真逆の意匠をしている、と言っていい。
 だから本当ならば見間違えるはずがない、と思う。いくら顔を覆えるほどのローブを着ているという共通点があったとしたって、僕は彼ほどの軍師にはなれていないはずだし、顔だって多分、そこまで似ていない。

 けれど、僕はそれに戸惑うことはない。


「いいよ。前はもっといろんな人に間違えられたから、気にしていない」
「それは、どういう……」
「僕はエクラ。君は……ルフレの名前を知っている、ということは覚醒の世界の英雄かな」
「覚醒の世界……? あ、私はなまえ……と言います。ごめんなさい、急に……」


 よろしく、と手を差し出せば、彼女は戸惑いながらも手を握り返してくれた。





 僕は特務機関に所属する召喚士だ。
 神器ブレイザブリクを扱うことで、別の世界から英雄と呼ばれる存在を召喚することが出来る。

 責任の重さを感じていないわけではないし、それでもこのアスク王国にはその力が必要だということを知っているから、それをやめることはない。
 様々な世界から、いろんな人を呼んだ。この特務機関に色んな英雄を呼び込んだ。
 その中の人たちに、彼女──なまえのように特定の誰かに重ねられることは、僕にとっては日常茶飯事だ。

 初めは、覚醒の世界から呼んだクロムだった。
 次は、烈火の世界から呼んだリンだった。
 その次は、暗夜と白夜の世界から呼んだ王族きょうだいたちだった。
 その次は、紋章の世界から呼んだカタリナだった。

 彼らは、僕の姿を重ねている。
 ルフレと呼ばれる軍師に。マークと呼ばれる軍師に。カムイと呼ばれる王族に。クリスと呼ばれる騎士に。
 何も、僕のことを別の人に重ねて呼んだのはなまえが始めてではなかった。

 だから僕も気にしないし、彼女にも気にしないでほしかったのだけれど。


「……なまえ、大丈夫だよ、気にしなくていいから」
「で、でも」


 僕の後ろをひな鳥のようについてくる彼女を見ていると、思わずそんな言葉が口から落ちる。直接言われたわけではなかったけれど、やっぱりあっていたらしい。
 気が付かないはずもない。僕が運んでいた書類を脈絡なく「持ちます」、なんて言われたら、何かあったのかと思ってしまうのは当然だ。そしてそれがこの間召喚されたばかりのなまえなのだから、心当たりなんて。


「間違えられる事なんて日常茶飯事だったから……」
「そう、なんですか」
「うん。ルフレに間違えられたことも勿論ね」
「…………」


 しょぼん、と目に見えて落ち込んだ彼女に何か違和感を覚えた。
 どうしたのだろう。落ち込み方が、ただ僕をルフレと見間違えただけのそれには思えなかった。期待と苦痛と、その他の色で彩られたそれは抱え込むのも苦しそうに見えてしまう。

 僕は、多分、人間としては普通だ。
 英雄をこの地に召喚できる、という素質の元、このアスク王国特務機関においてもらっているけれど、それ以外はなんら普通の人間だ。
 英雄たちのように強靭な肉体もなければ、何があっても折れない強さなんてない。みんなのように前線に立つことも出来なければ、英雄たちやアルフォンスたちが傷つくことに苦しむいたって普通の人間だ。
 だから、なのか。彼女の表情の変化を気にしてしまったのは。きっと踏み入ったって僕には何の利点も利益もないのに、だ。


「どうかしたのかな」
「……なんでも、」
「なんでもない、って顔はしていないよ」
「……はい」


 書類を運ぶ足を止め、僕は一度なまえに向き直る。
 小さい子だ、と思った。勿論この特務機関には彼女以外にも小さい子は沢山いる。レイやエリーゼなんかは特にそういっていいと思う。
 けど、僕には目の前の彼女がその子たちよりも小さく見えた。背丈じゃない、年齢じゃない。ただ、なまえという人間そのものがとても小さく見えたのだ。


「……内密に、してほしいんですけど」
「ん」
「私の……世界は、滅んでて」
「え」


 ぎょっと目を丸くしてしまった。彼女が紡いだ言の葉は、世間話として口にするには重すぎる。
 いけない、と思った。きっと軽率に触れるべきではなかった領域だ。だからもういい、と言うべきだったのに、僕の口はうまく回らない。
 ひゅう、とのどが鳴る。魂の奥底に焦げ付いた何かが、笑っている気がした。


「元凶は、倒されました。滅んでから随分と時間が経ってしまいましたが、きちんと……ルキナの手によって」
「え……」


 僕は、そんな話をルキナから聞いたことはない。
 だとしたら、彼女はあまたある覚醒の世界の、その中でも滅びを歩んだ世界の英雄なのだろう。この特務機関にいるルキナとは別の、もっと凄惨な世界から来たのだろう。
 それは、どれだけ、残酷なことなのか。


「……ルフレさんは……私が、憧れていた人で」
「……うん」
「焦がれて……探して……そこでエクラさんに会って……思わず、間違えたというか……」


 からりと魂の奥底に焦げ付いた何かが嘲笑う。
 やめてくれと理性に蓋をされた心が言う。
 けれど分かっている。知っている。僕は、それを。


「……うん、やっぱり、いいよ」
「……いいって?」
「僕を、見間違えていいよ」


 貼り付けた微笑みを、彼女はどういう目で見ているのだろう。なんだか怖くて、適当に笑ってごまかした。
 彼女の手から資料を奪って、足を進める。あ、と小さく漏れた声に、僕はまた笑った。



「君という英雄がそれで救われるのなら、僕はそれになったって構わないから」


 呆然と立ち尽くす彼女を置いていくように目的地へ向かった。暫くしてから重なった足音に、ああ、と僕は息を吐き出す。
 魂の奥底で煮えるこれは、多分きっとそういうことなのだろう。



混合魂




緑簾石-Unakite-
石言葉:恐怖心の解除

つまり:ぜつみらのルフレ=この世界のエクラ





2020.07.14
Title...反転コンタクト