解かれた紐。
「タクミ王子、ハッピーバースディ、です!」
12の月14の日。
風神弓を構えた白夜の第二王子たるタクミ王子に小包を渡してみる。訓練中に来るもんじゃなかったかな、なんて思うけれど来てしまったものは仕方が無い。ぽかんとした顔で私を見るタクミ王子は、いつもよりも幼く見えた。
何かそんなにおかしなことを言ったっけ? と思ったけど、そうだ。
ハッピーバースディって、暗夜の言葉だった。暗夜の王城で育った私はそんな気遣いもできていなかった。失念。
「えっと、ハッピーバースディっていうのは……白夜の言葉では誕生日おめでとう、かな?」
「ああ……そういえば、そうだったね。すっかり忘れていたよ」
日付が変わった瞬間に来たんだ、無理もない。
押しかけてごめんね、と小さく行ってみれば別に、と返して構えていた風神弓を下ろした。言葉遣いは相変わらずだけど、最初に会った頃よりは態度丸くなったなぁ。
それもこれもカムイ様のおかげね、なんて心の隅で考えながら小包を押し付けるものの、彼は受け取ろうとしない。まだ何かあるのか、と思えばタクミ王子は私の方を見直して呟いた。
「……僕、ナマエに贈り物なんてしたことないと思うんだけど」
「? はい。それがどうかしましたか?」
「それなのに貰うのは気が引ける」
……こういうところ、無駄にきっちりしてるなぁ。
別にそういうの私は気にしないんだけど、タクミ王子は一度言い出すと聞かないのはなんとなくわかってる。
これは、無理矢理押し付けて去るのが吉か。よし、そうしよう。
なんて決心して取り敢えず小包を渡して、踵を返した。
「待って」
「んぇ?」
服の裾を掴まれて後ろに引かれる。人を呼び止めることはあってもこんな止め方をする人ではないから、珍しいなぁ、なんて。
どうしたんですか、とタクミ王子に顔を向けると彼は小包を結んでいた紐を解いて手に持っていた。中身はまだ出されていないらしい。
尚のこと意味が分からなくなって、多分私は今とんでもなく間抜けな顔をしているのだろう。
「……ちょっとじっとしてて」
「?」
もう訳がわからない。言われるがままにじっとしていればタクミ王子が私の髪の毛に手を伸ばした。
私の髪の毛、あんまり綺麗でもないと思うんだけど。
タクミ王子の髪は臣下のオボロちゃんの影響もあってとても綺麗に手入れされてるからなぁ。私の髪の毛なんて触っても楽しくないんじゃないか。
そんなことを考えていればタクミ王子が小包を置いて器用な手付きで髪の毛を束ねていく。
一体どうしたんだろう。あの、と声を出せば「じっとしててって言ってるだろ?」と帰ってきた。うぅ、知ってたけど横暴。
「……はい、できた」
「タクミ王子?」
「あんたから貰ったものをプレゼントするなんてのもおかしな話だけど、まぁ受け取ってよ。……こうでもしないと僕の気が済まないんだ」
タクミ王子が私の髪から手を離す。その手にはもう小包の紐は無かった。
え、と顔を上げると頭、というか髪の毛に違和感。普段はもっと揺れる筈なのに、それが一箇所で纏まってるような……というより、纏まってる?
そろりと右手で違和感のあるところに触れてみる。思ったとおり、私の髪の毛は結われていた。
今さっきまでの私は髪の毛を結ってなかったし、リボンも持ってなかった。それが意味することは、つまり。
「た、タクミ王子……!?」
「はいはい、黙って受け取りなよ」
僕からの贈り物なんだから。ね?
そういって微笑むタクミ王子の顔に何故かどきりとしてしまって。私がプレゼントしたものなんだけどなぁ、なんて言葉は喉につっかえて消えていって、私は熱くなった顔を隠すために少しだけ俯いた。
解かれた紐。
((た、タクミ王子ってあんなにかっこよかったっけ……?))(何顔真っ赤にしてんのさ)(な、なんでもないです……)
Title...反転コンタクト
2015.07.13 執筆